「就職氷河期世代」の精神科医からの提言 規格化されていく現代の若者たちが「ないものとされた」世代から学べること
就職氷河期世代からのメッセージ「ないものにされるな」
さらに、インターネットは分断を生んでいます。アルゴリズムが各自に最適化されたことで、SNSで自分が触れている情報はどんどん偏っていく。反対意見を見聞きしにくくなり、世論もつかみにくくなっています。 熊代「21世紀の初め頃までは、本当・うそ、正義・不正義はもっと分かりやすかった気がします。だから『うそをうそと見抜ける人でないと(インターネットは)難しい』というひろゆき氏の言葉も半笑いで聞けた。 でも今はインターネットの情報の正確性を判断する難易度が上がっているのに加え、誰の思想信条をどこまで信じたらいいのかが問われていますよね。僕からは『よく見極めてください』としか今は言えません」 変化が激しいVUCA時代と言われ、この先も目まぐるしく環境が変わっていくであろう現代。先の予測はしづらく、渦中にいる人間が問題を客観視する難しさは冒頭で触れた通りですが、それでも熊代さんは「ないものにされるな」とメッセージを送ります。 熊代「私たちの世代は声を上げそこなって、長い間大きな問題はないものとされてきました。問題に気づかれた頃には、既に大変なことになってしまっていた。 同じように、若い世代の課題を、就職氷河期世代も含めて上の世代は気づいてくれないか、なかったことにしようとするかもしれません。皆さんなりに声を上げて、そうならないように努めてください」 ないものにされないための代表的な方法が、社会運動や政治運動。そして「個人的な記録を書き残すこと」だと言います。
熊代「オンラインだけでなく、紙に書き残すことが重要だと思います。例えば、神風特攻隊の隊員の声は、手紙などのかたちで今も残っていますよね」 「想像しにくいかもしれませんが」と、熊代さんはこう続けます。 熊代「社会がまずい方向に進んだ場合、インターネット上の情報が改変されたり消されたりする可能性も考えたほうがいいと私は思います。 未来がどうなるか分からないからこそ、私たちはいろいろなかたちで自分たちの声を発信すべきだと思いますし、してほしいなと思います」 ありえないと思っていたことが起きる。それは過去の歴史から私たちが学べる一つの事実です。「それを踏まえながら、よく考えて生きてほしい」と熊代さん。 熊代「分断が進めば、対立も増えます。そんな時こそ、社会構造に意識を向けてほしいと思います。 目の前の対立を引き起こしているものは何なのか。一歩引いて考えた時に、けんかする相手と自分たちは実は同じ土俵に乗せられていると気づけることはあると思うんです。ガミガミ言うだけではなくて、引いて考える思考も大事にしていただきたいと思います」
執筆:天野夏海 バナーイラスト:Yutthana Gaetgeaw / gettyimages デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio) 編集:奈良岡崇子