「就職氷河期世代」の精神科医からの提言 規格化されていく現代の若者たちが「ないものとされた」世代から学べること
1993~2004年頃、バブル崩壊後の雇用状況が厳しかった時期に就職活動をした就職氷河期世代。そんな時代を生きた一人の精神科医の目線から、およそ半世紀を振り返った手記が『ないものとされた世代のわたしたち』です。 就職氷河期世代を生きた著者の熊代亨さんは、リーマン・ショックで内定を取り消されるなど不遇を体験した下の世代に向けて「我々のようにはなるな」と警鐘を鳴らします。後輩たちは、「ないものとされた」世代から何を学べるのでしょうか。
【熊代亨(TORU KUMASHIRO)】 精神科医 1975年生まれ、精神科医。信州大学医学部卒業。 ブログ「シロクマの屑籠」にて現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信し続けている。 著書に『「若作りうつ」社会』『「若者」をやめて、「大人」を始める』『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』『「推し」で心はみたされる?』『人間はどこまで家畜か』など。
デジタルによる効率化、本当にそれでいいのか?
『ないものとされた世代のわたしたち』では、就職氷河期のど真ん中を生きた熊代亨さんの視点から、約50年間の社会の変遷を振り返っています。ここから後輩世代が得られる教訓の一つは「今も未来も分からない」ということ。 熊代「私が第一に申し上げたいのは、未来は分からないものだということ。そして、現在だって案外分からないものだということです。
かつて、我々の世代の大半は、今が就職氷河期だとか、少子高齢化がこの先大変なことになるとか、そういったことに気づけませんでした」 「この経験が何の役に立つのだろう」といぶかしみながらやっていた仕事の意味が何年も経ってから合点がいくように、職場や社会が今直面している問題もまた、渦中にいる人が俯瞰して見るのは難しいもの。 それでもその前提に立って2020年代を眺め直し、「分からないなりに考えてみてほしい」と熊代さん。生成AIの未来など予測がしにくいものもありますが、人口動態などある程度先が見えている問題もあります。 熊代「人口が減るのは悪いことばかりではありません。 例えば現在高齢者が個人でやっている小規模な田畑を集約すれば大規模な農業ができるようになり、日本の農林水産業の可能性はひっくり返るかもしれません。あるいは就職氷河期世代のマンパワーが見直されるかもしれない。 このように、人口動態から考えられることはいろいろあるはず。そこから見えてきたことをヒントに、皆さんなりに未来を見据えていただきたいと思っています」