「就職氷河期世代」の精神科医からの提言 規格化されていく現代の若者たちが「ないものとされた」世代から学べること
熊代「そんな風に考えなければいけない気がしてしまう背景には、今の社会の状況があります。個人のメンタルヘルスの問題を解決するだけでは立ち行かない状況にあることは、皆さんにもっと認識してほしいですね」 そもそも人間はそれぞれが個別の特性を持って生まれています。その中の特定の特性がADHDや「繊細さん」などとカテゴライズされているのであり、「それに振り回されるのは本末転倒」と熊代さん。 熊代「メンタルヘルスの問題を抱えている個人と、そこをカバーしなければならない職場が対立する構図は、美しいものではありません。その構図を作っているのは何なのか、時々思い出してほしいというのは、いち精神科医として願っていることです」
「オンライン下手」がハンディキャップになる可能性も
就職氷河期世代と、後輩ともいえるリーマン・ショック世代を比較した時の大きな違いとして、熊代さんは「インターネットが社会の外側から内側になった」点を挙げます。 熊代「私たちの頃のインターネットはアンダーグラウンドかつイリーガルなもので、『便所の落書き』とも言われました。社会の外側にあったから、勝手なことが書けたわけです」 そこからインターネットは社会の内側に入り、クリーンさが求められるようになりました。「便所の落書き」のつもりでSNSに書いたことが炎上する例は、毎日のように起きています。
熊代「それでいて今のインターネットは政治力と経済力の奪い合いの場でもあるんですよね。ある面では我々の頃よりずっと過酷です。インターネットをうまく使わなければいけない状態に、若い世代の皆さんは直面しているのだと思います」 最近ではAIが急速な発展を遂げ、IoT化が加速しています。この流れがさらに進めば、デジタルとアナログ、オンラインとオフラインの境はどんどん曖昧になっていきそうです。 社会のホワイト化によって発達障害が問題になっていったように、インターネットがさらに社会の内側に入っていくことで「精神医療にも変化が生じる可能性がある」と熊代さん。 熊代「インターネットがエッセンシャルなコミュニケーション手段になった場合、不適切なインターネットの使用がハンディキャップとしてクローズアップされるかもしれません。 あるいは『オンラインコミュニケーションへたくそ症』みたいなものが浮かび上がる可能性も考えられます」 そう話す一方で、「本当はそんなことを考えたくはない」と続けます。 熊代「『インターネット上のコミュニケーションの流儀に適応せよ』という話ですから。ネットリテラシーは生命線になるでしょうから磨いたほうがいいとは思いますが、ますます人間が規格化されることについては疑問も残ります」