2年ぶりに開催されたビーチレスリングって何だ?
ハードルが低い大会参加
関東最大の海水浴場、茨城県大洗町の海岸にビーチレスリングが戻ってきた。2011年の東日本大震災で津波の被害を受け、大洗町の海水浴場は、なかなか本来の営業形態を取り戻せないでいた。だが、2013年に大洗町は「今年は復興元年」(小谷隆亮大洗町町長)と宣言できるまでに回復、8月11日(日)に2年ぶりに大洗マリンビーチで全日本ビーチレスリング選手権大会の開催へとこぎ着けたのだ。 「全日本」と大会名につくと、オリンピックでのレスリングと同じように、試合へ向けて減量し、眉間にしわを寄せた神経質な選手が挑むものを想像しがちだ。ところが、ビーチレスリングは、そういった世界とは無縁だ。それというのも、レスリングでは大会出場する際に、つきものの計量がない。 大会は軽量級、中量級、重量級の3つの体重別トーナメントで行われるが、どの階級へエントリーするかはあくまで自己申告だ。そのおかげで、大会当日の朝、駆け込みで出場申し込みすることもできる。海水浴のついでに参加できる気軽さも手伝ってか、出場選手数は、男女あわせて246名にものぼった。 計量がないだけでなく、「初心者でもすぐできる」(斉藤修審判長)単純でわかりやすいルールも参加のハードルを下げている。3分1ピリオドで3点先取した時点で試合終了。得点の数え方もわかりやすく、直径6メートルと通常のレスリングの9メートルよりも小さいビーチレスリングの試合場から、どんな形でも足が一足以上出た場合は1点。相撲の押し出しと同じ要領だ。さらにテイクダウンなら2点。投げ技なら一度に3点入るのですぐに勝利となる。そして、寝技が一切ない。 また、足もとが砂地だといつものような踏ん張りがきかないため、ふだんのレスリングでの強さは通用しない。JAPANのロゴが入った日本代表用の試合着を着た代表経験選手でも、豪快に投げられ敗れる場面が見られた。「ビーチレスリングだったら、全日本優勝もできそうな気がする」とつぶやいたのは、ふだんは上位に食い込めず、強豪選手が相手だと臆してしまいがちな大学生だ。 そして、試合に勝っても負けても、出場選手を囲む人たちも、皆が笑顔なのもビーチレスリング大会の特徴といっていいだろう。「暑い~!」と叫びながら、試合が終わると海へまっしぐらに走っていき、髪が濡れたまま、再び試合に加わる選手もいた。 全日本選手権大会でありながら和やかな雰囲気は、エキシビションマッチにも及んだ。登場した2人の金メダリストのうち、女子の伊調馨は無敗で終えたが、男子のロンドン五輪金、米満達弘は小学生3人相手に1勝2敗。女子小学生に敗れたあと「いやあ、ビーチは勝手が違いますね。ハハハハハ」と笑ってみせた。 まるで夏祭りのような全日本大会で最優秀選手賞を獲得したのは、シニア重量級で優勝した日本大学4年生の岡倫之。一回戦負けした3年前と同じ成績では終われないと考え、大洗町が舞台になったアニメ『ガールズ&パンツァー』のウェアを着用して挑んだ。表彰式後には「この大会のために用意した、大好きなアニメのウェアのおかげです!」と嬉しそうにキャラクターがプリントされた大きな背中を見せてくれた。 気軽に参加できて、現状では誰にでも優勝するチャンスがあるビーチレスリングは、2年に一度開催されているアジアビーチゲームズの競技にも採用されている。来年、タイのプーケット島で開催される同大会へ日本代表として出場するのは、次の大会に飛び入り参加する、あなたになるかもしれない。