柔道・野村忠宏の引退会見全文4「未練はないです」
ちょっと優しい顔も出ちゃいましたね
朝日新聞:はい。それともう1つ。先ほどお話の中で、シドニーで勝ったらかっこ良くやめようと思った時期もあったと。一方で北京、逃したあと、1人でずっと戦い続けてきた姿が、北村康介さんなんかはかっこ良かったとおっしゃった。野村さんにとって、かっこ良さって今、なんだと思いますか。 野村:うーん。かっこ良さですか。だから、本当ね、別に情けない姿とかね、周りから見て情けない姿とか、みじめな姿とか、弱い姿っていうのはもうさらしたほうがいいと思うんですよ。ただ、自分の思いを貫く強さ。それを持ってるやつがかっこいいのかなって。 週刊文春:とても、最後の戦いを見さしていただいて、1試合目、2試合目の試合前、控えの椅子に座ってらっしゃったときは、なんかすごい集中して、声を掛けられない雰囲気を感じたんですが、結果として、最後の試合、3試合目の前に、観客席のほうを振り返ったのが、ちょっと、あったような印象がありました。 野村:観客席を見た。はい、はい。いや、あれは、3試合目だけではなくて、もう今までは、試合会場に家族が応援に来てくれたり、仲間が応援に来てくれて。試合中はそういうのは聞こえないけど、やっぱり試合前でああやって控えてるときっていうのは客席の声って聞こえてくる。それを「パパ」って言う子供の声が聞こえると、やっぱり自分は今、父親でもあるけれども、試合会場にいる以上は競技者であり勝負師であるから、いくら息子の声が聞こえても一切反応しなかったんです、今までは。 ただ今回は本当にもう自分の中で最後だったし、勝負師としての部分は持ちながらもやっぱり最後っていうことで、いろんな思いを持って試合会場に入って。ただ厳しいだけじゃなくて、わが子のね、息子の声援にも反応してやろうと。そういうね、今まで試合会場で本当に厳しい顔しか見せなかったけど、そういうちょっとした息子の声掛けに対しては、ちょっと優しい顔も見せたし。うん。 勝負も大切だけど、僕自身、最後の、現役生活最後の集大成として、思い切ってやろう。勝てるかどうか分からないけど、もう精いっぱい今の持てる力、一生懸命、精いっぱい戦おう。もう最後はそれだけだったから。うん。ちょっと優しい顔も出ちゃいましたね。 週刊文春:それは、現役最後の試合で、それまでの自分と違う自分が最後に出たという。 野村:そうですね。うん。