手ごわい論敵だが「心優しい気遣いの人でもあった」野田元首相の安倍元首相追悼演説(全文)
暴力の狂気に打ち勝つ力は、言葉にのみ宿る
その上で申し上げたい。長く国家のかじ取りに力を尽くしたあなたは、歴史の法廷に永遠に立ち続けなければならないさだめです。安倍晋三とは、いったい何者であったのか。あなたがこの国に残したものはなんだったのか。そうした問いだけが、いまだ宙ぶらりんの状態のまま日本中をこだましています。その答えは長い時間を掛けて、遠い未来の歴史の審判に委ねるしかないのかもしれません。 そうであったとしても、私はあなたのことを問い続けたい。国の宰相としてあなたが残した事跡をたどり、あなたが放った強烈な光も、その先に伸びた影も、この議場に集う同僚議員たちと共に、言葉の限りを尽くして問い続けたい。問い続けなければならないのです。なぜなら、あなたの命を理不尽に奪った暴力の狂気に打ち勝つ力は、言葉にのみ宿るからです。 暴力やテロに民主主義は屈することは絶対にあってはなりません。あなたの無念に思いを致せばこそ、私たちは言論の力を頼りに、不完全かもしれない民主主義を少しでもより良きものへと鍛え続けていくしかないのです。 最後に、議員各位に訴えます。政治家の握るマイクには、人々の暮らしや命が懸かっています。暴力にひるまず、臆さず、街頭に立つ勇気を持ち続けようではありませんか。民主主義の基(もとい)である自由な言論を守り抜いていこうではありませんか。真摯な言葉で建設的な議論を尽くし、民主主義をより健全で強靱なものへと育て上げていこうではありませんか。 こうした誓いこそが、マイクを握りながら不意の凶弾に倒れた故人へ私たち国会議員がささげられる何よりの追悼の誠である、私はそう信じます。この国のために重圧と孤独を長く背負い、人生の本舞台へ続く道の途上で天に召された安倍晋三元内閣総理大臣。戦い続けた心優しき1人の政治家の御霊にこの決意を届け、私の追悼の言葉に代えさせていただきます。安倍さん、どうか安らかにお眠りください。 (完)【書き起こし】野田元首相の安倍元首相追悼演説