〝手を下さぬ殺人〟で警視庁が異例の立件 暴行と服従立証 職場いじめ列車自殺強要事件
東京都板橋区の東武線踏切で昨年12月、男性に自殺を強要し殺害したとして警視庁が8日に塗装会社社長ら4人を逮捕した事件は、元同僚の自殺に殺人罪を適用する異例のものだ。職場という閉じた環境下で何が起きたのか。捜査1課は、死亡した高野修さんに対する「服従」の強要を軸に約1年にわたり証拠を積み重ね、立件に踏み切った。 【写真】男性が列車にはねられて死亡した東武東上線の踏切現場 高野さんは1人で線路に立ち入り、列車にはねられた。外形上は第三者の関与はなく、当初は捜査関係者の間でも「(自殺を唆したり手助けしたりする)教唆か幇助罪で立件するのが現実的」との声もあった。 しかし、捜査過程で高野さんの自殺前の動きや、容疑者同士のやりとりに不審点が浮上。殺人罪の適用が可能か検討する際、着目したのが令和元年10月に福井県の名勝、東尋坊から男性が飛び降り自殺した事件だった。男性は自殺前に少年らから激しい暴行を受け、「はよ落ちろや」などと強要されていた。大津地裁は「極限状態まで追い詰められた」として被告7人に殺人罪を認定した。 捜査1課は容疑者らのスマートフォンを解析し、動画などから容疑者らによる高野さんへの苛烈な暴行を裏付けた。野崎俊太容疑者のスマホには容疑者の「(高野さんが)川は嫌だから、電車がいいと言っている」とする音声も残存。容疑者らが高野さんを服従させ、自殺せざるを得ない状況に追い込んだと判断した。(内田優作、前島沙紀、梶原龍)