阪神・石井大智のロングラン取材 〝理論の沼〟に引き込まれながら活躍の理由を見る
【球界ここだけの話】給料が上がったか、下がったか。そんなことをずうずうしく聞くなんて、と思う気持ちを忘れないでいたい契約更改交渉のシーズン。12月6日、「ちょうど105%アップです」と会見の冒頭で率直に話してくれたのは、阪神・石井大智投手(27)だった。4200万円アップの8200万円でサイン。ただこの会見とその後の囲み取材は、金額の増減を聞くだけでは終わらなかった。 「新しいトレーニングとしては、野球から離れる意味でボルダリングやキックボクシングを進めていっているところですね」 オフシーズンに行うトレーニングで、野球以外のスポーツに取り組んでいる。これだけならよくある〝異業種トレ〟に感じるが、後に続く言葉が難しい。「投げる動作に関して、僕は投げるよりパンチする感覚、究極を言えば歩く動作に感覚が近い。そういう感覚を持っているので…」。投げるが歩くに近い? そのためにするスポーツ? 石井がこれまで培ってきた〝理論の沼〟に引き込まれていく感じがした。 12月6日付の紙面(大阪版)では、新しいトレーニングをする際の「自転車の例え」を取り上げた。この会見でも同じ例えで、野球以外のスポーツに取り組む心構えを聞いた。「自転車も乗れるようになったら1年間乗らなくても、1年後にも多少乗れる。人間って一度覚えたら結構覚えているものなので、それを狙っていろんな刺激を入れたい」。加えて戸郷(巨人)が以前、ボルダリングがフォークの安定につながると話していたことも、取り組むきっかけになったようだ。 では「歩く感覚」とは何だろう? 「投げる動作ってすごく負担が大きいというか、難しいんですよ」と切り出した石井。関節や肩、肘の複雑な動作が組み合わさる投球で「運動を最小にしたい」という考えが、歩くイメージにつながっていると説明した。 「投げるというと体に負担が大きい。歩いていたら勝手にボールが出てきた、みたいなイメージですね」 理詰めで考え、体に落とし込み、自分の感覚で言葉にする。計30分近くになった取材の中で、打者をなぎ倒す150キロを超える剛球が、こうした日々の取り組みに支えられていることが伝わったように感じた。鍛え抜かれ、考え抜かれた体から放たれるボールで、来季もバッターを苦しめる姿が楽しみになった。(邨田直人)