【現地ルポ】シリア首都の今(前編)…ダマスカスへの道中で見た異様な光景
シリアで長年独裁体制を続けてきたアサド政権が今月8日崩壊した。政権崩壊後初の週末にNNN取材は隣国レバノンから、シリアの首都ダマスカスへと入った。圧政に苦しんだシリアの民衆の高揚と傷痕を現地で取材した。 【後半はこちら】シリア首都の今(後編)…政権崩壊の高揚と傷あと (NNNニューヨーク支局長 末岡寛雄)
■「死から逃れるため避難した」…行方がわからない兄を探す家族
今月11日。アサド政権が崩壊したとの報を受けて、我々はまずシリアの隣国レバノンの首都・ベイルートへと飛び、シリアとの国境を目指した。地中海に面するベイルート空港からシリアとの国境手前にある、マスナ検問所までは車でおよそ1時間半。つづら折りの道で山を越え、再び少し上るとあっけなくシリア国境手前の検問所に到着した。 両側を山に囲まれたマスナ検問所は人と荷物を満載した車がひっきりなしに行き交い喧噪(けんそう)に包まれている。クラクション、救急車のサイレン、タクシードライバーの勧誘、商店の売り子の声が谷あいにこだましていた。家財道具を満載したトラックのほか、子ども数人を乗せた家族のワゴン車の中には、女の子のシートの横で生きた鶏が静かに鎮座していた。車が進んでいく方向に目をこらすとチェックポイントとなるゲートがあり、これからシリアへ向かう車とレバノンに戻ってくる車がひっきりなしに行き交っている。 中継ポイントを決め、準備を始めた。ふと視線を落とすと、手持ちぶさたに座っている家族がいる。両親と男の子2人の4人家族だ。父親に声をかけてみると、13年前に「死から逃れるため」シリアからレバノンに避難したという。アサド政権の崩壊を受けて、「シリアを取り戻せて国が安全になってよかった」と笑顔で喜びを語り神に感謝した。一方で、13年間行方のわからない兄を刑務所に探しに行くと表情を曇らせた。 シリアに向かう人がいれば、シリアから出国する人もいた。話を聞こうとしたところ、一様に我々の取材に対しては口を閉ざした。現地の通訳に聞くと、アサド政権側の人々が反政府勢力による報復を恐れて逃れてきた可能性もあるという。