KYOJO CUP 2024 第5戦|もっともクリーンで、もっともダークなレース|2024年10月6日(日)リポート
KYOJO CUPの根幹に関わる重大な事件の発生 2024年のKYOJO CUPはレーシングカーVITA-01で行われる最後の年。2017年の初開催以来使用されてきたマシンだ。出場するドライバー全員が使用し、セッティング程度で改造のいっさいを禁止したワンメイク車両で、多くのドラマティックなレースシーンを作り出してきた。すでに多くの人が話題にしている事件が発生してしまった2024年KYOJO CUPの第5戦。その話はこの記事の最後で語ろう。 【画像12枚】KYOJO CUP 2024 第5戦レポート さらに激しさを増す斎藤愛未、翁長実希、下野璃央の3強の戦い ストレートのスピードで圧倒する斎藤愛未、コーナリングの魔術師である翁長実希、すべてのバランスがよく、レース巧者である下野璃央。この3人のドライバーはKYOJOの中でも圧倒的な腕を持つ3名であり、それに異を唱える人はいないだろう。しかし、例年に比べて2戦多い2024年シーズンはマシンの調子が安定しない年でもあった。 三浦愛率いるチームMでマシンを熟成し、ドライバー自身も大きく成長した斎藤は第1戦から前回の第4戦までトップスピードで圧倒。以前からストレートの伸びに定評のあった彼女の特徴を活かしたセッティングで第2戦の初優勝から3連勝中。もっともシーズンチャンピオンに近い存在だ。4戦までのポイントは81と圧倒的。 2022年のシーズンチャンピオンである翁長は昨年、2023年における三浦愛との激しいバトルで2年連続チャンピオンを逃し、今年にかけるものも大きかった。第1戦の見事な逆転優勝があったが、その後はマシンの不調との戦いが続いていた。第4戦で以前の走りが戻ってきており、間違いなく斎藤にとっての最大のライバルといえる存在。4戦までのポイントは57。 上記2人の争いと思われていたが、KYOJOに戻ってきた実力者である下野はやはり強力。優勝は無いものの全体的なスピードは2人を圧倒。しかもどんどん調子を上げていることから、最終的な逆転チャンピオンも考えられる状態。第2、3戦はポールを取り、第3戦はファステストも記録している。4戦までのポイントは57。 4番目の平川真子もポイント的にはチャンピオンの可能性はあるが、安定感から考えると上位3人にチャンピオンは絞られた印象。特に斎藤はここで優勝すると最終戦を待たずに年間チャンピオンが決まる状況にあった。それを翁長と下野がどう阻止するかが楽しみな1戦だった。 意外な伏兵の登場にゆれる上位3名 2024年シーズンとしては初めての雨。しかし、どんどん晴れる方向へは向かっていた。どの選手もラスト2戦ということで、それぞれの勝負がかかっていた。特に大きかったのは来シーズンのシート獲得。2025年シーズンからVITA-01ではなく、フォーミュラーのKC-MG01に使用マシンが変わる。そして現在31台が参加するKYOJO CUPの枠はマシンの数の関係もあり23台へと減らされる。 このフォーミュラマシンを使ったトップカテゴリーがKYOJO CUPとなり、その下に今までのVITA-01を使用したKYOJO VITA、そしてカートの女子大会であるKYOJO KARTが作られる。ただ、KYOJO VITAは富士チャンピオンレース(FCR)の中での混走となり、開催数も3戦と大幅に縮小されてしまうため、できればフォーミュラーに乗りたいというのが各ドライバーの希望。そのためにも中~下位に位置する選手は結果を残す必要があるのだ。 そんな中で始まった第5戦の予選は意外な選手の飛び出しから始まった。坂上真海である。第2戦から参戦した坂上は予選16位、決勝14位。第3戦は予選16位、決勝15位だったが、第4戦で予選6位とジャンプアップ。決勝で第2グループを形成するが、スピンして16位という結果に終わっていた。突然のジャンプアップが難しいイコールコンディションの競技でここまでの成績は珍しいが、来期のシートの確保が難しいポジションではあったため無理しているのでは、という評価だった。その坂上が第5戦予選の終わり間際に下野に続く2位タイムを記録。 まだウェットな路面で全体がいつもより10秒近く遅いタイムだったこともあり、意外なドライバーが上がってくることはあるが、それでも驚きの結果。そしてもう一つの驚きは、予選重視のトップドライバー3名の中で斎藤が完全に出遅れたことだ。 最終的にポールポジションは下野。2位に坂上、3位に翁長、4位にスーパー高校生で前回のレースを別の仕事のために欠場した富下李央菜、5位にマシンの不調でなかなか上に上がってこれなかった実力者である金本きれい、そして6位に斎藤だった。7位は現在若手ナンバーワンの実力者である佐々木藍咲、8位に前日の2時間耐久で表彰台に上がった山本龍、9位にこれも意外な順位に落ちた平川真子、10位に実力者であり、好調を維持している永井歩夢。さらに意外な順位としては織戸茉彩が12位と自己最高位となったことだ。KYOJOに関わる人であれば彼女の人柄の良さ、努力を知っているため、サーキットにいるほとんどの人に祝福を受けていた。織戸学のDNAを持つ彼女の2025年が楽しみだ。 雨の止んだ決勝はドライバー全員が うっぷんを晴らすかのような見事な走りを展開 レース直前に雨は上がり、多少ウェットだが気にするレベルではなくなった路面。グリッドウオークの間も足元を気にするドライバーが多かったが、スタート時にはほとんどドライとなっていた。 スタートはキレイな状態。毎回ドキドキするようなスタート直後のTGRコーナーだが安心して見られるようになってきた。その最中に坂上が下野を抜いてトップに。とにかく圧倒的なマシンスピードを持つ坂上のマシン。1週目から下野、坂上、翁長、富下が激しいバトルを展開、その後ろでは平川、永井、バートン・ハナ、山本龍、佐々木の順位が入れ替わる。驚くべきはその後ろにいる織戸。常にポイント圏内に入る実力者である岩岡万梨恵と互角のバトルを展開。多くのスタッフ、そして両親兄弟、彼女のファンの揃うマックスオリドチームのピットは大盛り上がりとなった。 下野はすぐにトップを取り返し、コーナースピードで勝る翁長は坂上を何度もプッシュするが、短い直線で鋭い加速をする坂上のマシンに引き離され、いつものように抜くことができない。そんな中、6位スタートの斎藤がトップ集団に追いついてくる。 下野、坂上、翁長、富下に斎藤が加わったことで順位が次々に変わるが、坂上のコーナリングミスで下野が独走体制に。その後ろから翁長はコーナー入口で坂上を追い詰めるが、立ち上がりの加速で負けてしまう。追いついてきた斎藤だったがマシンの不調からか直線でのパワー不足で翁長を抜けない。その様子を見てアタックをかける富下。 路面がまだ微妙に濡れている箇所もあり、山本、金本が相次いでコーナーを飛び出し順位を落とす。トップから最下位までほぼすべてのマシンがバトル状態にあるが、それでも周回タイムはどんどんあがり、バートン・ハナと永井がファステストを更新し合う状況。 そんなバトルの中、注目はやはり斎藤。優勝すればシーズンチャンピオンが決まるため、どこで仕掛けるかが気になるところ。2023年の最終戦の三浦愛のように無理せずしっかりとポイントを稼ぐのか、それともここで決めてしまうのか、今季最終戦に向けた計算が始まっていた。 しかし斎藤はマシンの調子が悪く、ずるずると順位を下げ、最終周にはコーナーでふくらみ、さらに順位を落とす。下野は独走体制を固めることとなった。翁長はいつものように最終周、最終コーナーに狙いを絞り、パナソニックコーナーでついに坂上をかわすことに成功。このまま2位でフィニッシュかと思われたが、コーナーでミスし、ふくらんだはずの坂上のマシンが信じられない加速で翁長を抜き返し2位となった。 嬉しい初優勝の下野と勢力図が大きく変わった第5戦の決勝レース レースは優勝が下野、2位に坂上、3位に翁長、4位に富下、5位に平川、6位に永井、7位にハナ、8位に山本、9位に佐々木、10位に岩岡となった。注目の織戸は11位と大検討。セカンドグループを形成した金本は12位、そしてこれも大検討の関あゆみが13位、なんと斎藤は14位でまさかのノーポイントとなった。 坂上のトップ争いという今までにない状況がトップ3人のパワーバランスを崩し、意外に結果に終わることになったが、これで下野は大きくポイントを伸ばすとともに、ノーポイントだった斎藤に肉薄。下野、翁長、斎藤のいずれかのうち最終戦で優勝したドライバーがシーズンチャンピオンになるというKYOJO CUPのファンにとってはこれ以上ない展開となった。 斎藤と下野にとっては初、翁長にとっては2022年以来のチャンピオンだが、その2022年において翁長は圧倒的にポイントリードしながら最終戦でまさかのリタイヤ。チャンピオンにはなったが、ポイント数はわずかで薄氷の勝利だった。 「今回はチーム、マシン、そして私自身の調子のすべてが良かったです。美希ちゃん(翁長)の調子が良かったのと、愛未ちゃん(斎藤)がいつ仕掛けてくるかが分からなかったのでドキドキでしたが、なんとか勝てました」と下野。嬉しさを隠しきれない様子で、今までギリギリ勝てないというモヤモヤした状況であったため、すっきりした表情が印象的だった。 3位だった翁長は「マシンも調子よかったのですが、レース展開がよくなかったです。5台のグループで真ん中にいたので、前の2台を気にしながら後ろの2台に抜かれないようにすることに神経をすり減らしました。とにかく坂上さんのマシンが速くて、コーナー入口で並んでも出口を向いた瞬間に一気に引き離される感じで、結局最後も抜かれてしまいました」と悔しそう。ただ、まだ最終戦でのチャンスは残されている。 今回は事故もコースアウトリタイヤもなく、激しいバトルが全体的に起こっていながらもクリーンで素晴らしいレースだったと言えるだろう。 しかし、表彰式も終わり、しばらく時間が経過したあとに事件は起こった。 驚きの優勝、準優勝の失格。その内容も前代未聞だった ピットの片付けも進み、同日に行われたインタープロトの決勝レースが終わった頃、いつもより時間のかかったレース終了後の車両検査においてシリーズ規則違反が発覚。上位2台が失格となり、すべて繰り上がりで翁長の優勝が正式決定。以下、富下が2位、平川が3位となり、以下の順位も2つずつ上がることになった。 失格理由について関係者には連絡されたが、公式発表はされていない。そのため、ここに記述することができないが、内容的に下野の失格については「ちょっと厳しすぎる判定」と本記事記者は考える。タイムプラスもしくは順位下げでも問題なかったのではと思う内容。あくまで個人的な考えだ。ただ、今後に影響を与えるペナルティは無く、最終戦は間違いなく出場可能と思われる。次こそ初優勝を狙ってほしい。坂上の次戦出場は危ういだろう。来季に影響が出ないことを願う(注追加:坂上はチームを変更しての出場が認められた模様)。 優勝となった翁長は「「富士スピードウェイさんとシリーズが時間をかけて判定してくれた。イコールコンディションにしていただき、感謝しています」とコメント。この言葉は翁長を知る人ほどとても深いものだ。誰よりもイコールコンディションを大事にして、ドライバーの腕を競うものというKYOJOに賛同してきた翁長。彼女のマシンは驚くほどノーマルの状態が維持されており、直線のスピードはトップグループのどのマシンよりも遅い。それをコーナリングテクニックでカバーし、優勝争いをしているのである。 第5戦終了時点でのポイントは、斎藤が81、翁長が77と肉薄。下野が57、平川が52とここまでがシリーズチャンピオンの可能性がある。というのも通常優勝ポイントは20、2位が16、3位が12、4位10、5位が8、6位が6、7位が4、8位が2となっており、その他に追加でファステストラップポイントが1、ポールポジションが2となっているのだが、最終戦は違う。最終戦では優勝が30ポイントで2位が24、3位が18、4位15、5位が12、6位が9、7位が6、8位が3となる。ちなみに最終戦のみファステストとポールポジションのポイントは付かない。 斎藤と翁長の差は4ポイントのためどちらも優勝すれば文句なしにチャンピオン決定。斎藤と下野は24ポイント差、翁長と下野の差は20ポイントのため下野が優勝し、斎藤が7位以下、翁長が6位以下であれば下野の逆転優勝となる。平川は優勝すると82ポイントとなり、斎藤の現在のポイントである81を逆転するため、彼女までがシリーズチャンピオンの可能性を持っているのだ。 圧倒的優位だった斎藤のアドンテージはかなり小さくなり、安定した順位を常にキープしている翁長がかなり優勢。もちろん下野と平川にも十分にチャンスはある状況。 こんな魅惑的な状況にある最終戦はスーパーGTの延期開催によるKYOJO CUPの日程変更で12月22日(日)となった。VITAでのKYOJOの最終戦となるこの日、最後のチャンピオンが決定する。この歴史的瞬間をぜひ富士スピードウェイに見にきてほしい。
Nosweb 編集部