黒幕介入の阪神監督人事に暗黒時代再来危惧
野球界を知らない次期オーナーの間違い
昨年オフに3年契約を結んだ金本監督の続投は2年目の“自動更新”であり、コーチングスタッフの1、2軍入れ替えや、元中日の和田一浩氏を打撃コーチとして招く再建案も坂井オーナーに報告されて承認されていた。強烈な関西メディアの取材に対して、「金本は続投か?」と聞かれ続けて「変わりません」と、対応してきた谷本本部長にしてみれば、それは嘘のない精一杯の誠実なコメントだったのだ。 すでに坂井オーナーは、昨年、本社会長を退任しており実権はなかったが、藤原会長、秦社長らは、タイガースのことは坂井オーナーに任せていた。 だが、自らが12月1日をもってオーナーとなる来季に向けて、もう実権をふるい始めていたのである。オーナー就任1年目のシーズンに金本監督の成績が低迷、いきなり監督問題に直面することを恐れたのかもしれない。 藤原次期オーナーは、解任ではなく、あくまでも表向きには辞任という決着にしたかったのだろう。そのミッションの遂行を命じられた揚塩社長は、本社では“部長格”のサラリーマン社長の悲哀を恨みながら内輪を欺いたのかもしれない。 「黒幕(本社)が動いた」 球団関係者の一人は、怒りを込めて、そう嘆いた。 方法論からして間違っていた。 金本監督は、低迷の続く夏場に関係者には「最下位になるようなことにでもなれば、結果責任を取りたい」と漏らしていた。契約の残り2年に固執する気などなかったのだ。人気球団の監督人事が、どうしても結果主義に流れるという現実も理解していた。 ならば、もっと早い段階で「CS出場ならば続投」「最下位なら引いてもらう」と、金本監督に言い含めておき球団も、その両方のケースに備えて動くべきだったのだ。 最下位になれば、味方を欺かなくとも金本監督は辞任を表明しただろう。 実際、和田豊監督や、真弓明信監督の退任時には、球団の事前の根回しと準備があった。真弓監督の退任時には、球団側が、坂井オーナーに“梯子を外されかける”という事態もあったが、フロント幹部が何も知らされていないというような異常事態はなかった。 12球団というコップの中で人が動く野球界は、常に先を見据えて先手を打ちながらリスクマネージメントを行うことの重要な世界だ。しかも、マスコミ、ファンという目がある。その中でユニホーム組の尊厳を守り、球団のブランディングと、なにより強いチームを維持していかなくてはならない。社内人事とは違う。監督人事では、スタッフも含めた多くの人が連動する。だが、藤原次期オーナーは、その必要な手順を省いて、まるで会社の係長を異動させるように金本監督への“人事異動”を発令した。 「野球界を甘く考えすぎている」 そう憤慨する関係者もいた。 筆者がトラ番だった阪神暗黒時代にはストーブリーグになると「黒幕」という言葉が飛び交った。