上村吉太朗 『俊寛』千鳥「かわいくて純粋。強い一面も持つ娘」【今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集より】
とにかく純粋。心が動くまま、真っすぐに
── 「鬼界ヶ島に鬼はなく」という大事な台詞があります。 吉太朗 『俊寛』のテーマですよね。これははっきりと伝えなければいけない。千鳥は最初は自分のような身分の者がと思うのですが、少将と出会うまできっとずっとひとりで生きてきた女性だと思うので、言うべきことは案外はっきりと言っているんです。千鳥、年齢は二十歳になってないくらいなのかなあ。 ── あどけないところもあるし、強気な面もありますね。そしてもうひとりで死のうかというところへ俊寛が船を降りてきて、千鳥に「こなたを船へ乗せてやる」と。 吉太朗 ここは「もういいです、ひとりで島に残るくらいなら死んだ方がましです。行ってください、乗ってください!」という思いですね。 ── 俊寛を初役で勤める菊之助さんとふたりでじっくりと芝居する場面です。 吉太朗 そうなんです。ふたりのお芝居の場面。 ── そして瀬尾との立廻りですね。 吉太朗 ここはむちゃくちゃですよね(笑)。砂投げたり。熊手というのでしょうか、持ち上げて瀬尾にかかっていきます、とにかく瀬尾に一生懸命立ち向かっていきます。覚悟を決めるしかない千鳥にとってはこの人が鬼ですから、いてもたってもいられず、自分にできることは何でもしてやるという強さが見えるところです。千鳥って感情の起伏も結構はっきりしていて、その感情に素直に動くんです。俊寛にはずっと「科は逃れぬからやめろやめろ」と言われているんですけどね(笑)。 ── 吉弥さんから何かアドバイスはありましたか。 吉太朗 熊手で加勢しようとして止められるところは、「もう!」というすねる感じで、はっきりとストンと肩を落としたほうがいいと。遠くのお客様にも分かるからと教わりました。 ── 今、吉太朗さんがストンと肩を落としたしぐさをしただけで、ふっと目の前に千鳥が現れました。 吉太朗 本当ですか(笑)。サワリでは、特に義太夫を使ってやる部分は、上方の役者としてもしっかりやりたいですね。ちゃんと音にはめて、振りを音に当てて。義太夫を使って振り事をするときは「踊りになってはいけない」と言われていますので、そこはきちんと気をつけて感情を乗せながら。あくまでもサワリは心情の描写で、感情に動きが付いてくるものなので、そこを大事にしたいと思います。……って自分で言ってハードルを高くしてしまいました……。 ── そして俊寛は瀬尾にとどめを刺します。 吉太朗 千鳥の最後の台詞、「親は一世、夫婦は来世があるものを」、ここも大事な所だと思うんです。千鳥が耐えかねて自分の気持ちを言うところで、「のめのめ船に乗らりょうか」と。俊寛への感謝と申し訳なさ、ここに至るまでにもずっとそう思ってはいるけれど、最後に言葉できっぱりと言うのが千鳥らしいなと。 ── 何も言わずに泣き崩れるのではなく、ちゃんと自分の気持ちをはっきり俊寛に伝えていますね。 吉太朗 そうなんです。瀬尾は死んでしまったけれど、自分が乗るわけにいかない、申し訳ない、だから皆さんおさらばと。純粋です。この役は、本当に。 ── そういう純粋さはどう表すのですか。 吉太朗 目線や体の使い方、いわゆる“おいしい”見せ方はいろいろと師匠に習ってはいますが、基本的には心情にまっすぐにいこうと思っています。思った通りにそのままで。どう見せようかという技法だけではなく、まっすぐに伝えられればと。 ── 舞台の上で吉太朗さん自身が心動かしたことがそのまま伝わってくるように。 吉太朗 ですので、僕自身の心が動いてなければ表現できないことになってしまうんですよね。