シリア・アサド政権「あっけない」崩壊の裏事情、弱まるイランの影響力、イスラエル一強にトルコはどう出る
タイミング的に、アサドにとってそんな重要な化学兵器倉庫への空爆を、イスラエルはカタール・ドーハでのロシア、イラン、トルコの3者会談が行われるわずか数時間前に実行した。3者会談時にはアサドが反政府勢力を抑え込める可能性はまったくなくなっていた。 ■ほくそ笑んだのは誰か ロシア、イラン、トルコの3者会談でほくそ笑んだのは誰か。 トルコはイランがシリアから撤退したら、イランからベイルートの陸上で中国の一帯一路の回廊につながるルートが断たれるため、一帯一路でアジアから欧州ルートの回廊はトルコを通ることになる。
さらにシリア北部とイラク北部のクルド地域を新オスマン主義でトルコ領土に加えるか、トルコ支配下にある地域にしようとする計画が順調に進んでいるようにみえる。 イスラエルは、イランやイラン系武装勢力をシリアから押し出すことに成功した。イスラエル北部を攻撃するレバノンのヒズボラやガザのハマスへの補給線は断たれた。イスラエルの領土拡大計画も順調に進んでいるようにみえる。 シリアの隣国ヨルダンや湾岸諸国は、アサド政権の崩壊で中東におけるイランの影響力を弱め、その手先となっているヒズボラを筆頭とするイラク、シリア、レバノン、イエメン、ガザにいるあまたのイラン系武装勢力を根絶させる計画を順調に進めているように見られる。
また、シリアは経済制裁下の外貨稼ぎ目的で、アサド大統領の弟マーヘルの指揮下で国を挙げて違法ドラッグを製造し、ヨルダンや湾岸諸国に密輸して深刻な社会問題を引き起こしていた。 アサド政権を打倒するということは、シリア国民のみならず、政権を支えてきたバアス党所属の大臣たちまでもが賛成し、今回の政権崩壊を喜んでいる。だがその後のシリアを、テロ指名されているようなイスラム原理主義組織に国を支配させるわけにはいかない。
HTSの指導者ジュラニは、それまでのイメージを変えようと必死だ。ターバンを外し、イスラム原理主義者の装いから洋装に変えた。 そして「キリスト教徒はその他のスンニ派イスラム教徒を攻撃しない。宗派対立的言動は拘留1カ月の罰を与える」という命令を発布し、自らの名前も本名のアフマド・フセイン・アル=シャラアを名乗り、「ジュラニ」と呼ばれることを嫌がるようになった。 ジュラニのキャラ替えを指南したのはイギリスのMI6(情報局秘密情報部)だともいわれているが、ジュラニはNATO(北大西洋条約機構)加盟国であるトルコの支援で、アサド政権を倒した。
ジュラニとNATO加盟国との間には、何か密約や合意がなされていたはずだ。さらに合意を覆す密約のような、例えばかつてのサイクス・ピコ協定の21世紀版のようなものがあっても驚かない。 ■次期トランプ政権はどう動く? トランプ次期政権で中東問題の顧問は、ミスアド・ボウロス氏。トランプ氏の娘で、レバノン系アメリカ人の婿の父親だ。 レバノン出身のボウロス氏は流暢なアラビア語を話すクリスチャンだ。ボウロスとはパウロのことだ。第1次トランプ政権ではクシュナー氏がアブラハム条約などでイスラエルとアラブの和平に貢献した。第2次トランプ政権で彼は、中東情勢にどのような行動や助言を行うのだろうか。
アビール・アル・サマライ :「ハット研究所」所長