セブンが総額9兆円でMBO、会社は創業家から買収提案と発表
三井住友銀と三菱UFJ銀、みずほ銀の広報担当者は個別の取り引きについてはコメントを控えるとした。伊藤忠の広報担当者は「決まった事実は何もない」とした。
しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンドマネジャーは、コンビニ中心の経営を望む一部株主と、経営陣の「認識ギャップに対する答えだろう」と分析する。9兆円という額については、「市場価値以上かつ買収提案より高い価格とあって、悪い価格ではない」とコメント。MBOは、セブン&アイ株主に資金が戻るほか、日本企業は時価総額よりも価値が高いというメッセージにもなり、株式市場へもプラスの影響を及ぼすとした。
岩井コスモ証券の菅原拓アナリストは業績の改善や再編によりクシュタールが提案した以上の株価を達成するのは難しい状況で、創業家による「助け船」の意味合いもあるのではないかと指摘した。ただ、資金調達を巡ってはファミリーマートを傘下に持つ伊藤忠の参加により「コンビニ大手3社のうちの2社が一つの資本のもとに入るのは競争法上の懸念が生じる可能性もある」と述べた。
実現にはハードル
関係者の1人は、セブン&アイが子会社からの切り離しを検討しているイトーヨーカ堂などのスーパーマーケット事業も含めてグループ全体を買収し、非上場化後にスーパーマーケットなど非中核事業を売却し、企業価値の向上を図ると述べた。ファミリーマートを傘下に持つ伊藤忠がMBOに参画することで、相乗効果が見込める。
ただ関係者によると、買収資金が巨額に上ることから、実現に向けたハードルも高い。クシュタールが提案を取り下げた場合は、MBOに至らない可能性もある。
セブン&アイの半期報告書によると、創業家の資産管理団体である伊藤興業は筆頭株主で8.16%を保有する。ブルームバーグのデータによると、伊藤家出身の伊藤順朗副社長も個人名で0.37%を持つ。
セブン&アイは1920年に東京・浅草で開業した洋品店「羊華堂」を源流とする。2023年に亡くなった伊藤雅俊氏が羊華堂を母体としてヨーカ堂(現イトーヨーカ堂)を創業し、コンビニや百貨店など経営の多角化を進めた。セブン&アイは05年に持ち株会社として設立され、現在に至る。