【ひねもすのたりワゴン生活】滋賀から城崎、そして神戸 5日間1500㎞のクルマ旅 その9
天橋立から伊根の舟屋…。それは海沿いの素朴で静かなドライブ
与謝天橋立ICを出ると、天橋立はもう目と鼻の先。176号線で天橋立駅方面へ向かって、京丹後鉄道に沿って、ぐるりと阿蘇海を巡る。 当たり前の話だけれど天橋立は、高台から眺めなければあの優美な絶景を楽しむことはできない。で、モノレールやリフトのある天橋立ビューランドに向かってみたところ、駐車場に入る長蛇の列と人の波が目に飛び込んできて、不安がムクムクと頭をもたげた。“これ、結構時間を取られるんじゃないの…”。
この後に訪ねるつもりの伊根集落も小一時間はかかるらしいから、こんなところで予定外の時間を奪われるのはちょいと御免だ。もちろん、城崎温泉には夕方に着けばいいのだけれど、外湯巡りが人気の温泉街だから日暮れ前に何湯か回って夕食を迎えられたら、それはそれで嬉しい。気まぐれ旅は欲張り旅でもある、と思う(笑)。
…というわけで、モノレールで高台から見下ろすのは断念。とはいえ、ここまで来て天橋立をまったく愛でないのもどうかと思い、宮津湾をぐるりと回って、天橋立を反対側の海辺から眺めることにした。これなら伊根の舟屋に向かう道すがらだし、天橋立駅周辺に比べれば混雑も少ない。 住宅地のような細道を抜けて海辺に出てみると、天橋立が遠く視線の左右に伸びる。…が、海岸の平地から眺めているので、目に入る風景は、海を左右に横切る木立、要は緑の帯が伸びているだけなのである。観光ガイドなどで目にしたあの優雅な龍のような姿ではない(笑)。モノレールを断念した段階で分かっていたはずなのに、こうして実際に眺めてみるとあまりの味気なさに笑いが込み上げてきた。即刻退散!
さて、目指すは伊根の舟屋群で、若狭湾を右に見ながらひたすら176号線を進めばいい。特にこれといって眺めるものも、思わず足を留めたくなるようなスポットもない静かなルートだが、こんなドライブこそが、日常ではなかなか味わうことのできないクルマ旅の魅力だ。度重なる赤信号に気をもむことも、長い渋滞にイライラすることも、割り込みや急ブレーキに肝を冷やすこともなく、自分のペースでゆったりと走る。関東なら房総半島の内房あたりの海沿いを平日に走ると同じような心地よさに身を浸すことができるが、近年はアクアラインからのクルマが増えて、そんな走りも難しくなったらしい。ステアリングに手を乗せ、たわいもない話を交わしながら海辺を走るひと時は、日頃溜まった心の澱をすっかり流してくれる。