オルタナ総研統合報告書レビュー(35): エーザイ
記事のポイント①エーザイは、非財務資本の価値を定量化②非財務資本の価値向上は、将来の財務的な価値へと変換③人件費投入を1割増やすと5年後のPBRが13.8%向上等示す
エーザイは、「知的資本」や「人的資本」等の非財務資本の価値を定量化し、非財務資本KPIとPBRの相関関係を開示しています。非財務資本の価値向上は、将来の財務的な価値へと変換されると考えています。「人件費投入を1割増やすと 5年後のPBRが13.8%向上」「研究開発投資を1割増やすと10年超でPBRが8.2%向上」等と記しています。(オルタナ総研フェロー=室井孝之)
同社は「知的資本」や「人的資本」などの非財務資本の価値向上に取り組み、企業理念に基づく本源的な企業価値を定量的に示しています。 非財務資本の価値は、財務資本を上回る市場付加価値として「PBR(Price Book-Value ratio:株価純資産倍率)1」を重要な指標だと捉えています。 PBRは、「財務資本」としての株主資本簿価とそれを超える市場付加価値の和で、PBR1 倍を超える部分は、「知的資本」「人的資本」「製造資本」「社会・関係資本」「自然資本」といった5つの非財務資本の価値と考えられます。 非財務資本の価値向上は、将来の財務的な価値へと変換されると考えられ、中長期的な企業価値の創出にとって非財務資本の価値向上が重要であるとの示唆となります。 同社では、非財務資本の価値を定量化するため、非財務資本の KPIとPBRの相関関係を重回帰分析で解析し、開示しています。 人的資本への投資や認知症領域、がん領域を中心とする新薬創出への取り組み(知的資本)は、遅延浸透効果により中長期的な企業価値向上につながることが示唆されており、これらの取り組みを重要マテリアリティとして位置づけています。 1.人件費投入を1割増やすと 5年後のPBRが13.8%向上 2.女性管理職比率を1割改善すると 7年後のPBRが2.4%向上 3.育児短時間勤務制度利用者を1割増やすと9年後のPBRが3.3%向上 上記3点は、マテリアリテイ「人財価値の最大化」と相関しています。 4.研究開発投資を1割増やすと10年超でPBRが8.2%向上 5.フェーズⅢ試験のプロジェクト数を1割増やすと6年後のPBRが2.7%向上 上記2点は、マテリアリテイ「認知症領域における社会善の実現」「がん領域における社会善の実現」と相関しています。 6.新卒採用社員3年後定着率が1%改善すると、7年後のPBRが4.6%向上 この点はマテリアリティ「人財価値の最大化」と相関しています。 今後は、未開示のマテリアリティ「グローバルヘルス領域における社会善の実現」に関する非財務資本KPIとPBRの相関関係の例示を示したらいかがでしょうか。