定期検診とレントゲン/歯学博士照山裕子
「100歳まで食べられる歯と口の話」<49> 定期検診の際「レントゲンを撮りたくない」とおっしゃる患者さんが、まれにいます。被ばくの心配と、保険診療における点数すなわち自己負担金の問題があるようです。 私たちが普段生活していて被ばくする1年間の自然被ばく量は約1mSv(ミリシーベルト)程度です。これに対し、胃や十二指腸撮影の皮膚線量は約9mSv、乳房撮影は1検査あたり約60mSv程度です。歯科撮影では約4mSvですが、局所被ばくであるため、放射線による致死がんリスクの高い組織(骨髄、結腸、肺、胃、乳房等)への影響はほぼないと考えられています。実際に臓器がどれだけ放射線を浴びたかという実効線量を求めると、撮影1回あたり約14μ(マイクロ)Sv程度です。 異変を発見するには、目視による診断、いわゆる「視診」は欠かせません。ところが厄介なことに、目で見える範囲では予測できないものが口の中には数多くあるのが現実です。栄養摂取に困らないよう口の中はとても頑丈にできており、患者さん自身が痛みや違和感を覚える段階では病気が進行しているケースがほとんどです。 このため私たちはレントゲンを用いた診断を追加させてもらうことを常にしています。具体的な例を挙げると、隠れ虫歯(見かけ上エナメル質に穴が開いていないのに、内側の象牙質まで深く侵襲が及んでいる虫歯)や、二次う蝕(金属の詰め物やかぶせ物の下で生じた虫歯の再発)、根尖性歯周炎(神経を抜く治療を行った後に再発する根管内の細菌感染)、歯根の破折等が発見できるメリットがあります。磨き残しがたまり、歯ブラシが届かない歯周ポケット内に縁下歯石といわれる障害物が鎮座して歯周病の治りを悪くしていることもあります。 近年では歯科用CTも普及し、症例によっては保険診療で顎や歯の3次元画像が確認できる時代です。数十秒の撮影で大切な歯を守れる、とても優れた手段だと思います。