次世代の手術支援ロボットを目指して―初の国産ロボット「hinotori」導入の理由
近年、がんを中心に手術支援ロボットを使った手術が普及してきています。手術支援ロボットとして米国インテュイティブサージカル社の「Da Vinci サージカルシステム(以下ダヴィンチ)」が国内外で圧倒的なシェアを占めるなか、2020年に国産初の手術支援ロボット「hinotoriサージカルロボットシステム(以下hinotori)」が製造販売承認を受けました。川崎重工とシスメックスの共同出資により設立されたメディカロイド社(本社:神戸市中央区)が開発し、東京歯科大学市川総合病院では2022年にhinotoriを導入しました。泌尿器科の腹腔鏡下手術で多くの経験を培ってきた同院泌尿器科の中川健先生にhinotoriを導入した理由、外科医として手術にかける思いなどを聞きました。
◇“操作アーム”からの脱却を目指す
hinotoriを導入した大きな理由は、今の手術支援ロボットを将来的に「本物のロボット」に発展させていくうえで、国内メーカーのほうが私たち医師の意見や要望を聞き入れてもらいやすいと感じたからです。私が思い描く「本物のロボット」とは、術者が操作するものではなく、ロボット自身が自律的に手術をする機器です。今の手術支援ロボットはどれもマスタースレーブ型*の操作アームとしては秀逸な機器だと思いますが、術者の技量によって手術のクオリティが左右されてしまう点は、どの手術支援ロボットを使おうと変わりません。 漫画「ブラック・ジャック」でブラック・ジャック医師が自分で自分の手術を行うシーンが描かれているように、私も自分が手術を受けるなら自分の手術を受けたいと思っています。無論、そのようなことは不可能ですが、もしも自分の手術操作ログをロボットに読み込ませて手術を行うことができれば、夢のような話ではなくなります。 *マスタースレーブ型:機器の制御・操作を司るマスター機と制御下で動作するスレーブ機により複数の機器が協働動作すること。 「“日本発”を打ち出していきたい」という若い頃から抱いていた思いも、hinotoriを選んだ理由の1つです。医師になって間もないときから、教授をはじめ周りの医師たちがアメリカの医療機器を使っているのを見ていて、「日本はこれほど科学技術が発展しているのになぜアメリカの機器を使わなければならないのだ」と悔しい思いを持っていました。後に私が「経尿道的バイポーラ前立腺核出術(TUEB:チューブ)」という前立腺肥大症の術式を編み出して治療機器の開発に携わったのも、そして今回、国産初の手術支援ロボットであるhinotoriを導入することで開発に協力したいと思ったのも、こうした思いがあったからです。