次世代の手術支援ロボットを目指して―初の国産ロボット「hinotori」導入の理由
◇外科医が追求するべくは「安全・根治・低侵襲」
外科医の仕事は、一度の手術で安全に病気を根治させることです。これを外科医は絶対に放棄してはなりません。再手術は患者さんにとって大きな負担となりますし、麻酔をかけること自体がリスクを伴う処置ですから、一度の治療で根治を目指すべきなのです。そのうえで、患者さんにとってできるだけ負担の少ない低侵襲手術でこれを実現するべきだと考えています。腹腔鏡下手術を始めたのは「患者さんのために痛くない治療をしたい」と思ったことがきっかけでした。私自身も痛いのは嫌いですし、誰しも痛みが少なく手術を受けたいと思うはずです。整容面に考慮した手術をしたいというのも持ち続けてきた思いです。私は腎臓を摘出する腹腔鏡下手術を行う場合、おへそに約5mm、お腹に約5mmと3mmの穴を開け、そこから器具を挿入して手術を行います。そのうえで、恥骨のすぐ上(陰毛に隠れる部分)を切開して腎臓を取りだせば、傷あとはほとんど気にならなくなります。傷が小さいので痛みも少なく、通常追加の鎮痛薬も不要です。腹腔鏡下手術を始めたのは慶應義塾大学病院にいた1990年代、医師5年目のときでした。当時は日本に腹腔鏡下手術が登場して間もない頃でしたが、人に恵まれ、手厚い指導の下で経験を積むことができました。 今年の11月に開催される第38回日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会総会で私は大会長を務めます。テーマは「エンドウロロジー・ロボティクスの実学」としました。「実学」とは福沢諭吉の教えで、日用の中にある学問という意味です。実用できる価値があるからこそ研究・開発する意義があると思いますし、本学会はその重要性について再認識できる場にしたいと考えています。
メディカルノート