お年寄りが好きな「地元のお菓子」がいきなりトレンド1位に…愛知名物「しるこサンド」が新たなファンを生んだSNS戦略
好きな人だけが買う地元の菓子だった
創業者、そして社員の夢を乗せて世に送り出された「しるこサンド」は、地元・愛知の人たちに好評だった。当時はまだ甘い菓子が高価で、キャラメルも1個100円という時代。そこに量り売りで安価に購入できるしるこサンドは破格だった。「腹ペコな子どもたちをお腹いっぱいにしたい」という創業者の思いが詰まった価格設定である。 3枚食べて初めてしるこの味わいがわかるという、商品のコンセプトも良かった。つまり、1枚食べただけではあんこの風味を感じないが、連続で2枚、3枚と食べると、口の中にじんわりと味が広がる。実際には、その後も4枚、5枚と手が止まらなくなる人が続出するそうだ。この絶妙な味のバランスも消費者にとって新鮮だった。 とはいえ、発売から5年ほど過ぎると人気に陰りが見えてきた。愛知を中心とする東海エリアには浸透したものの、爆発的に売れるというよりも、本当に好きな昔からのリピーターが買い続けているような状態だった。客層も基本的には年配が多かった。岐阜県出身の可兒さんも、どちらかといえば祖母の家に置いてあるイメージだったという。加えて、現在のようにまだ販路が確立できておらず、全国的にもほぼ無名の存在だった。 長らく影を潜めていたしるこサンドが、一躍、ヒットの階段を駆け上がるのは2008年ごろ。全国のご当地グルメなどを紹介するテレビ番組「秘密のケンミンSHOW」がきっかけだった。また、同時期には別の番組で当時SKE48だった松井珠理奈さんが「子どもの時から食べていた」というコメントをしたことで引き合いがかなり増えた。 これらの番組放送直後から販売数が急増。しばらくはフル稼働で対応した。
創業80年で広報部が発足した理由
さて、ここまでの話だと、テレビに出たから売れたということで終わってしまう。商売そんなに甘くはない。 実は一過性のブームにならないよう、松永製菓自らが考え、推し進めたのがSNS戦略だった。それまで商品の宣伝やPRなどはほぼしていなかったと上述したが、現に会社には広報担当もいなかった。歴史の長い会社なのに広報部が立ち上がったのは2018年と、まだ10年も経っていないのは驚きである。なぜこのタイミングで部門ができたのか。 「2018年は創業80周年でした。中小企業こそ広報活動を積極的に行う必要があり、今後マスメディアに順応できる担当者が必要となって、広報部ができたのです」 当時は60代が購買層の大多数を占めていた。そこは大切にしつつも、新しい顧客を育てていかないと商品の未来が危ぶまれるのは必然だった。では、新しい顧客、すなわち若年層を獲得していくにはどうすればいいか。その一つとしてSNSの活用が有効だと松永邦裕社長(当時は専務)が判断したのである。 ただし、SNSを使えば、若者にリーチでき、万事うまくいくなどという話はない。しかし、まずは若者のハートを捕まえるためには、同じ世代である20代、30代の社員が商品開発に携わったり、広報担当として情報を発信したりするべきだと考えた。 「例えば、50代の社員が20代の消費者に対してコミュニケーションをとるのは、恐らく苦労すると思います。だから同じ世代の社員がいいだろうと。一方で、若手社員だけにすべてを一任するわけにはいかないので、バックアップするためにベテラン社員をつけて、その都度確認しながら運用していく。そのような会社の体制がその頃から整い始めました」