大田ステファニー歓人「自分にとって何が幸せで豊かなのかを考える力が奪われている」[FRaU]
無駄な消費は、私たちの暮らす環境にも影響を及ぼしている。 「工業社会になったことや、先進国の消費行動が地球の環境を壊している。水害などはインフラの整っていない箇所で起きやすくなっているから、そのツケを貧しい国や地域が払っているということでしょう。虐殺や気候変動などの問題が起こってしまうのは、西洋中心の価値観で設計された社会に限界が来ているからだと思います」
今世界で起きている問題は、決して他人事ではないと大田さんは訴える。 「自国だけの発展とか、自分さえ良ければいいという精神を見直すべき。その考え方は、必ずどこかに皺寄せが生じます。発展の仕方を見つめるときが来たという意味では、世界で起きていることは全然他人事じゃない。それぞれが自分にとっての豊かさを見つけたり、守ったりする余裕がないまま社会に出されるから、自分に合っているかもわからない既存の価値基準を内面化するしかない。だからおかしくなる。でもそれは個人の問題ではなくて、学校などで、主体的な考え方より従い方を叩き込まれ、企業は利益を最優先するから。社会の教育の問題な気がします」 このインタビューが行われたとき、大田さんはもうすぐ第一子が誕生するというタイミングだった。自身の子どもにどんなふうに育ってほしいか、思いを聞いた。 「生活のなかで、権力を意識しない環境のほうがいいと思っています。家族のなかで父親は絶対だとか、そういう力関係を植え付けず同じ人間として接したい。親や先生に言われたから無条件に守らなきゃいけないって意味が全然わかんない。我が子には、言われたことをそのまま受け止めず、自分の頭で考えられるように。ウチのことすらも疑えと伝えていきます」 真摯な目で世の中を見つめ、それをリアルに描写する大田さん。彼の言葉は、私たちに「このままでいいのか」と疑問を投げかけ続けている。 大田ステファニー歓人 おおた・ステファニー・かんと/1995年東京都生まれ。日本映画大学で映画制作を学び、5年前からは小説の執筆を開始。ごみ収集の作業員をしながら創作をする。2023年、不登校になりかけている主人公の高校生が、小学生の頃の友人に再会したことで違法なバイトに巻き込まれていく物語『みどりいせき』で第47回すばる文学賞を受賞しデビュー。作品の独特の文体や、授賞式のスピーチが話題になる。同作で第37回三島由紀夫賞も授賞した。現在、次回作を執筆中。 ●情報は、FRaU2024年8月号発売時点のものです。