アルツハイマー病を血液検査で判定、精度90%、医師の見立てより正確で「非常に有望」
根本的な治療法はまだない
これらの研究成果は確かに有望だが、若干の注意が必要だとグローバル・ブレイン・ヘルス・インスティテュート(GBHI)の神経科学者チー・ウデ・モモ氏は警鐘を鳴らしている。 「このような検査はほぼ西洋人の集団、主に高所得層を対象に開発されています。そのため、特に民族的、社会経済的な背景が異なる層にも適用できるかどうかは不明です」 スウェーデンの研究に参加した人々は、ほかの健康問題や教育レベル、都市に住んでいるかどうかについてはかなり多様だった。これらはすべて、アルツハイマー病のリスクに影響を及ぼす可能性がある。ただし、民族的な多様性は低かった。 つまり、民族的な多様性の高い米国人に適用するのは難しいかもしれないと米ジョンズ・ホプキンス大学の経済疫学者エマニュエル・ドラボ氏は指摘する。「タウタンパク質の一種『p-tau217』の割合は、グループによって意味合いが異なるかもしれません」。そのため、初期研究としては有望かもしれないが、ほかの場所でも試験を繰り返すことが重要になるだろう。 この血液検査は診断だけでなく、どの患者にどの治療法が有効かを判断する助けになるかもしれない。 現在の治療法のほとんどは症状を抑えるだけだが、最近開発されたアミロイドベータを標的とする2つの抗体薬は、病気の進行をわずかに遅らせることができる。しかし、これらの薬は認知機能の低下を数カ月遅らせるだけで、脳の腫れや出血といった副作用のリスクがあるため、定期的なMRI検査が必要だ。米国では事前の遺伝子検査も推奨されている。 たとえ有効な治療法がなくても、より手軽に入手できる情報は重要だとスウェーデン、ルンド大学の臨床神経科学者で、論文の著者の一人であるジェンマ・サルバド氏は述べている。より効果的な検査を受けることができれば、患者はより多くの時間を対応や準備に使えるからだ。 「患者とその家族は、体が不自由になる前に将来の計画を立てることができます」 現在進行中の研究の結果、この病気の進行を大幅に遅らせたり、止めたり、逆転させたりする薬が登場すれば、検査が極めて重要になるかもしれないと氏は述べている。 「心臓病は良い例だと思います。心臓病の場合、たとえ症状がなくても、血液中のコレステロール値を簡単に測定できます。そして、値が高すぎたら、ダイエットを始めたり、薬を飲んだりできます。おそらく将来的には、脳内に蓄積しているアミロイドベータやタウを血液検査で測定し、高コレステロールのように治療できるようになるでしょう。ただし、研究はまだ始まったばかりです」
文=Tim Vernimmen/訳=米井香織