57歳で現役の三浦知良が“引退”に触れた瞬間 20年前…吐露した率直な心境「あと2、3年」【コラム】
プロとしてのあるべき姿を体現
そして、カズは多くの困難とも向き合ってきた。ブラジル時代のカズの写真を撮り続けていた、サンパウロ在住のカメラマンの方から色々なカットを見せてもらったことがある。ピッチ、練習でのプレーや、プライベートなものまでさまざまなポジフィルムを見せてもらった。そのなかにはホテルのフロントだろうか、所属チームが決まらずこのときばかりは写真に撮られたくなかったのか、ソファに深く座りサングラスをかけたままの笑顔のないカズが切り取られていた。 そうした挫折や困難を「我慢、チャンスを絶対に掴むという気持ち」を持って乗り越え、選手として成長していく。サントスFCに帰り咲いたときのプレーをライブで見たブラジル人からは、パルメイラスとのクラシコで相手DFに尻もちをつかせる鋭いフェイントで観衆を沸かせ、1得点1アシストを記録した試合(2-1でサントスFCが勝利)のことを何度も聞かされた。 クラシコという特別な試合での熱狂のなかで、日本人プレーヤーがブラジル人DFをきりきり舞いさせたプレーに思いを馳せ、実際に目にしたわけではなかったが、その言葉に興奮した。 「プロとしてお金は結果として求めないとダメだけど、なによりサッカーを愛する気持ちがないとダメだと思う。サッカーを愛する気持ちがあれば、どんな苦しいときでも頑張れる」 この約四半世紀前にカズが口にした、サッカーに対する情熱はいまでも不変で、彼の心のなかにある。あるからこそ、選手としてのカズがいる。 世界でも例外的なこの年齢まで、現役のサッカー選手を続けることには賛否がある。ピッチに立つために肉体的な衰えを厳しい自己管理で乗り切ろうとする絶え間ない努力と、強い精神力を持って現役であり続ける姿に感銘を受ける人間がいる。しかし、その一方で、日本サッカーの発展に大きく貢献した、キングカズの衰えは見るに堪えないという人もいるだろう。 日本サッカーが発展する黎明期を牽引した全盛期のころと違い、いまのカズがピッチでできることはほとんどない。だが、サッカー選手としての限界はほかの誰でもなく、自らが決めればいいことだ。 あくまでも個人的な評価だが、これまでのすべての日本人プロサッカー選手のなかで、もっともプロとしてのあるべき姿を体現しているのは誰かと問われれば、迷うことなく三浦知良だと答える。 この自分のなかに宿る評価は、きっとこれからも不変であり続けると思う。 [著者プロフィール] 徳原隆元(とくはら・たかもと)/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。80年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。
徳原隆元 / Takamoto Tokuhara