『ロボット・ドリームズ』マンハッタンの片隅で描かれるスウィート・ドリームズ、ビター・ドリームズ ※注!ネタバレ含みます
夢を叶える場所、コニー・アイランド
もうひとつ『ロボット・ドリームズ』で特筆すべきことは、さまざまな映画の記憶が詰まっていることだろう。 ドッグの家には『スター・ウォーズ』(77)のC-3POとR2-D2らしき人形が置かれているし、壁にはピエール・エテックスの『ヨーヨー』(65)のポスターが貼られている。アパートの窓越しに仲睦まじいトナカイと牛のカップルを覗き込むショットは、アルフレッド・ヒッチコックの『裏窓』(54)のようだ。 シュノケーリングしているときに海底で見つける「OCEAN BEACH WELCOMES YOU(オーシャンビーチはあなたを歓迎します)」の看板は、『ジョーズ』(75)の「AMITY BEACH WELCOMES YOU(アミティビーチはあなたを歓迎します)」をもじったものだろう。海に飛び込んだロボットを見てドキっとするドッグを、“めまい”ショットと呼ばれるドリーズームで表現しているのも、『ジョーズ』を連想させる。 まだまだある。フレームの外からフレームインして背景のなかに入り込むショットは、『キートンの探偵学入門』(24)。ベンチに座ってマンハッタン・ブリッジ越しに花火を見物するショットは、ウディ・アレンの『マンハッタン』(79)。ハロウィンには、『シャイニング』(80)の双子の少女や、『エルム街の悪夢』(84)のフレディに仮装した子供たちがやってくる。ちなみにパブロ・ベルヘル曰く、雪の中でのそりレースは『ベン・ハー』(59)へのオマージュらしいのだが、いや、さすがにそれは分かりにくいわ! ロボットが砂浜に置き去りになってしまうコニー・アイランドもまた、映画的記憶が詰まった場所だ。トム・ハンクス主演の映画『ビッグ』(88)では、移動遊園地で13歳の少年が「大人になりたい」と願った。スティーブン・スピルバーグ監督の『A.I.』(01)では、ロボットのデイビッドが「人間の子供になって母親に愛されたい」という願いを抱いて、この場所に足を踏み入れた。ここは、ドリームズ・カム・トゥルーなマジカル・ワールドなのである。 だからこそ我々は、ロボットが足取り軽くドッグの家に舞い戻り、久々の再会を果たすことを信じてしまっている。現実ではなくロボット・ドリームズであることが明かされても、次こそは二人が巡り合えると信じきっている。夢が叶う場所、コニー・アイランド。だがこの映画は最後まで、夢を夢のままで終わらせる。