『ロボット・ドリームズ』マンハッタンの片隅で描かれるスウィート・ドリームズ、ビター・ドリームズ ※注!ネタバレ含みます
実写のくびきから解き放たれた、想像力の翼
パブロ・ベルヘルがサラ・ヴァロンの原作を知ったのは、今から10年以上前のこと。小さい娘のために絵本を集めていたとき、このグラフィック・ノベルに巡り合った。すっかり作品の世界に魅了され、感動のあまり溢れる涙が止まらなかったという。そして、これまで実写映画しか撮っていなかったにも関わらず、アニメーション映画を作ろうと思い立ったのである。原作と同じように、セリフなし、ナレーションなしで。 もともと彼は、1920年代の無声映画に魅了されていた。F・W・ムルナウ、カール・テオドア・ドライヤー、フリッツ・ラング、ヴィクトル・シェストレム、アベル・ガンス…。映画黎明期に新しい視覚表現を生み出してきた巨匠たちに畏敬の念を抱いていた。2012年にモノクロのサイレント映画『ブランカニエベス』を発表した際には、「私の映画はヨーロッパのサイレント映画、特にフランス映画へのラブレターだ」(*2)とコメント。その想いは、確実に『ロボット・ドリームズ』にも息づいている。 アース・ウィンド・アンド・ファイアーの「セプテンバー」にのせて、ローラーダンスするドッグとロボットを下から見上げるショット。そりで雪原を急降下する、ドッグ目線のPOVショット。スノーマンの頭がボーリングの玉となって、レーンを転がる様子を垂直回転で捉えたショット。初めて空を飛んだツバメの子どもがバランスを崩して、反時計回りに落下していくショット。 特に目を見張るのは、ロボットが夢の中で『オズの魔法使』(39)のエメラルドシティに迷い込むと、たくさんのヒナギクの花たちがタップダンスを披露するシークエンスだ。伝説の振付師バスビー・バークレーを彷彿とさせる幾何学模様のダンス。ヒナギクの足元から、ロボットの肩越しから、そして真俯瞰から、カメラはその様子を切り取っていく。 「監督として現実的な観点から話すと、もしこの映画を実写でやっていたら2億ドルはかかっていただろうが、実際の製作費は600万ドルだった。(中略)バスビー・バークレーやハリウッド・ミュージカルへのオマージュは、絶対にできなかっただろうね。あれは、私のお気に入りのシーンのひとつだ。タップダンサーを1,000人雇う予算はなかった。ありえない場所にカメラを置いたんだ」(*3) 『ロボット・ドリームズ』には、パブロ・ベルヘルのクリエイティビティが縦横無尽に張り巡らされている。実写のくびきから解き放たれたことで、その想像力はさらに自由に翼をはためかせているのだ。