赤ちゃんは言語をどう学ぶ? 研究者が語る「オノマトぺ」の重要性
言語習得のグラデーション
【千葉】「言語習得の入り口は人類普遍だ」という話は、けっこうすごいことですね。少なくとも、哲学・思想や文化・社会理論を研究する分野では、これまで素直に認めることができなかった。 一方で、身体感覚から遠く、音象徴性が薄い記号同士の差異でつくられているような「デジタル的な言葉」もあります。そちらのほうがソシュールの言う「恣意性」で説明しやすいでしょう。 しかし、僕らが最初に覚えるのは、オノマトペの延長のような、アナログで身体感覚に根ざした原始的な語彙であり、そこからのグラデーションとして「デジタル的な言葉」が派生してくる――。本書では、そういうビジョンを提示しているわけですね。 【今井】そのとおりです。赤ちゃんは、アナログな「知覚」から言語習得をスタートさせますが、すぐに単語や文の意味を発見し、知識を構築します。その知識を使って、また次の学習をする。「何々とは何か」を推論によって、永遠に洞察していくことで、知識の再編成とアップデートを繰り返していくわけです。 つまりは、新しい言葉が入るたびにその再編成が加速する学習サイクルが起動しているわけですね。私はそこに、「記号接地」と同じように、「言語の本質」を見るわけです。 【千葉】言語の本質に迫る研究が成り立つことに、とても勇気づけられます。 【今井】ありがとうございます。本書を幅広い立場の方に、それぞれの興味の持ち方で読んでいただけたことは、本当にありがたいです。本日議論できたことも幸せなことでした。ありがとうございました。
今井むつみ(慶應義塾大学教授),秋田喜美(名古屋大学大学院准教授),千葉雅也(立命館大学大学院教授)