赤ちゃんは言語をどう学ぶ? 研究者が語る「オノマトぺ」の重要性
言語に「身体」は必要か
【千葉】『言語の本質』というシンプルなタイトルとは裏腹に、本書はいくつかのユニットが複雑に組み合わさって成り立っています。オノマトペの研究をベースに、オノマトペの言語学的な評価や正当性、アブダクション推論(仮説形成推論)にまで射程を広げている。決して単純な本ではないですが、あえて言うならば、どこに力点があったのでしょうか。 【今井】いくつかありますが、一つは「記号接地問題」でしょうか。認知科学での、未解決の問題です。1960~90年代までの人工知能は、現代のような「人間の脳細胞」を模したものではなく、人間がコンピューターに記号を与えて問題解決をさせる「記号アプローチ」が主流でした。 しかし、この問題を最初に提唱した認知科学者スティーブン・ハルナッドは、人工知能の「記号アプローチ」を批判し、人工知能が言葉の意味を真に理解するためには、基本的な一群の言葉の意味はどこかで感覚と接地(ground)していなければならないと指摘しました。 つまりは、最初に覚える言葉が、嗅覚や触覚などを含む「身体に根ざした経験」と紐づかなければ、言語を真の意味で理解できないということが彼の論点です。 ハルナッドが提起した記号接地問題は、まさに子どもの言語学習にも当てはまります。たとえば、私たちは外国語を学ぶときに、外国語の辞書(外国語を外国語で定義した辞書)しか情報がなければ、永遠に何かの「意味」にたどり着くことはできません。 同じように、幼児がはじめに「感覚」に接地した言葉を何一つ知らなければ(外国語学習の例で言えば「感覚に接地」した母語を介さなければ)、言語学習は不可能であるということです。 しかし、ハルナッドの指摘が正しければ、子どもはどのように言葉を覚え、巨大な言語システムを獲得していくのでしょうか。 この問いの鍵となるのが、秋田先生と共同で研究してきた、「オノマトペ」です。オノマトペは、音形が感覚につながっているという点で、「身体的」な言語と言えます。