<独占インタビュー3>羽根田のカヌー人生の転機はスロバキアにあった
――すんなりと受け入れてくれたのですか? 「この人と直接、メールでやりとりをしたのですが、受け入れてくれました。後々考えると、よく受けていれてくれたなと。オントコ・コーチはスロバキアの連盟のコーチとして雇われている人だったので、好き勝手にプライベート選手をお金をもらって教えることはできないはずなんですがねえ」 ――コーチ料を支払ったんですね? 「1か月で700ユーロ(当時のレートで9万円弱)でした。でも最初は、メールのやりとりでの交渉で、日本人だと思って舐められてふっかけられたんです(笑)。1日、150ユーロ(約1万8000円)と言われたんです。でもそれは無理と話をして、実際、現地に行ってからも交渉して1か月で700ユーロに値上げしてもらいました(笑)」 ――スロバキアの物価からいくと、どれくらいの価値の額になるんですかね? 「スロバキアの物価は安くて、東京で暮らすより経済的には楽なんです。今住んでいるアパートはボロですが、月に400ユーロ(約4万8000円)です」 ――スロバキアでは、この10年、ずっと同じ場所で? 「いえ、北京五輪後に父とも相談してスロバキア国内の練習環境、場所を変えて大学に入りました。それまでは練習だけを田舎でやっていたんですが、コメニウス体育大学は、首都のブラチスラヴァにあります。体育学部のコーチング学が専門ですが、肉体のメカニズムの基礎知識なども学びました」 ――将来、指導者になるための? 「働き口があればいいんですけどねえ。どうなんでしょう」 ――そこで出会ったのが、現在コーチのミラン・クバンさんなんでよね? 「はい。そこに今のコーチであるミランさんもいたんです。スロバキア国内には人工コースが2つあって、そのひとつがブラチスラヴァにもあるんです。ミランさんは、ちょうど現役を辞めてコーチを始めようとした頃でしたが、選手としてトップレベルだったが、本当にコーチとしてやっていけるのか、と試行錯誤の中、僕を見てもらうことになりました。彼も同じ大学でコーチング学を学んでいたので知識はあったのです」 ――どんなコーチですか? 「彼は、練習だけでなく、普段の生活も含めて厳しい姿勢で臨むコーチです。練習ではよく怒られます。特に気を抜いていると、『1本、1本、大会のつもりでやれ!』と。教えることはシンプルで、小さいことや難しいことは言わずに、地道なこと、簡単なこと、当たり前のことをしっかりとやらせるスタンスなんです。小難しい最先端のサポートではなく本質を見ている人ですね」 ――ミランにもコーチ料を? 「ミランには払っていません(笑)。彼は、最初から日本チーム監督として連盟にサポートをしてもらっています。でも、日本チームの監督ですから、最初の2年間くらいは、他の選手も含めて、10人くらいを一斉に見るんですね。見てもらえるのはローテーションになるので、僕が一緒に練習できるのは、1日に1回あるかないか。ロンドン五輪が終わって『これじゃリオ五輪では勝てない、やってられない』と、訴えました。結局、2013年からは、僕専従のコーチになりました」 (第4回につづく) (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)