企業ニーズの多様化で起こりつつあるネットワークの変化--現状と将来、課題
ネットワークの利用は複合的に 前述の多様なニーズに対応するネットワーク技術にも変化が生じている。特徴的な動向の一つが、オプティカル(光)ネットワークの広がりだ。 オプティカルネットワークは、既に大陸間の海底ケーブルや通信事業者のバックボーン、家庭やオフィスのアクセス回線など広く普及し、NTTが中心となった「IOWN」構想などで次世代通信基盤としても存在感が増している。ここでは、ノキアなど通信インフラシステム各社が「Passive Optical Network」(PON、受動光ネットワーク)を展開している。 PONは、通信事業者ネットワークの終端装置に接続する加入者側の領域(ビルの構内など)のネットワークを光回線ベースにする仕組みだ。光化することで、伝統的な電気信号ベースのルーターやスイッチなどの機器、通信に伴う電力や設備スペース、コストなどを削減でき、高速化や大容量化などの効果が期待される。このPON技術をアクセス回線以外のネットワーキングに活用する動きがある。 ノキアの顧客事例では、ニュージーランドのチェリー工場が25GbpsのPONを活用して、チェリーの品質チェックと仕分けを自動化しているという。工場では、ベルトコンベアー上を流れる膨大な量のチェリーをHDカメラで撮影し、AIでチェリーの品質を分析。1つのチェリーの品質チェックに用いるHD画像は75枚で、1時間当たりでは約40万枚に上るデータ量の伝送が求められた。また、品質の判定と仕分けではリアルタイム性が求められ、ベルトコンベアーおよび周辺機器のエッジとAI処理を行うクラウド間のエンドツーエンドで4.5ミリ秒以内の遅延を要件としているが、実際には2ミリ秒以下を達成しているという。 こうしたユースケースについて国内では、主に無線通信の「ローカル5G」(海外では「プライベート5G」とも呼ばれる)の活用が期待された。通信機器メーカーなどがローカル5Gのシステム(基地局設備や通信機器などで構成)を提供し、徐々に導入も広まっている。ただ、広い範囲で無線通信の環境を整備するには、コストがかさんでしまう課題を伴う。 岡崎氏によれば、PONの一般的ネットワーキングへの活用は光ファイバーなど社会インフラの整備がこれから本格化する新興国市場での普及が見込まれたが、実際には日本でも大都市圏の再開発需要の高まりなどから、新たに建設されるビルなどで導入検討されるケースが多いという。他方で、既設ビルなどへの導入ではネットワーク環境を大きく刷新する必要があり、部分的や段階的な光化を検討するケースが中心だという。 こうした有線ベースのPONや無線ベースのローカル5Gといった新しいネットワーク技術は、それぞれに向き不向きがあり、単一の技術であらゆる要件を満たせるわけではない。要は利用目的、ユースケース、適用環境に応じて適材適所で組み合わせることが現実解となり、ここでもクロスドメインネットワークの考え方が重要になる。 また、クロスドメイン化に向けてネットワークの運用自体もAIを活用した自律性、自動化がテーマになり、ノキアでも生成AIを含むネットワーク運用業務の効率化技術の開発を進めているという。例えば、長距離伝送路では難しかった障害発生箇所の絞り込みをネットワークのインテントデータやAI分析で可能になることが期待される。 ネットワークへのニーズは今後も多様化し、新たなものも登場するだろう。ニーズに対するネットワーク自体もまた進化を続けていくことになる。