内藤礼の作品に民藝の心を感じるホテル。富山・砺波平野で民藝の心を感じる旅へ。
富山県にある民藝をテーマにしたアートホテル〈楽土庵〉に、内藤礼の作品が新しく恒久設置されました。今年春にオープンした〈杜人舎〉とあわせて、民藝の心を感じる旅へ誘います。 【フォトギャラリーを見る】 2022年、富山県砺波市にオープンした〈楽土庵〉は3組限定のスモール・ラグジュアリーホテル。築120年の「アズマダチ」と呼ばれる、この地に特有の民家を改修している。客室は全3室。それぞれ「紙」、「絹」、「土」を素材のテーマとして使用し、世界各地の民藝の家具や器、地元の工芸作家の作品が飾られている。ロビーにも芹沢銈介や棟方志功、濱田庄司ら民藝ゆかりの作家による作品が展示されている。
内藤礼の作品があるのは〈楽土庵〉の脇にある、日本芝が植えられた庭の空間。立体作品《タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)》、ベンチ、そして水田を臨む庭全体が《返礼》と題された。
《タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)》はそのタイトルの通り、そっと息を吹きかけるという作品だ。水をたたえた細長い立体作品に息を吹きかけると水面がわずかに波立つ。波を目で追っていくと水田の先に山並みが見える。
〈楽土庵〉の中にも内藤の作品《color beginning》と《ひと》が置かれている。《color beginning》は色が生まれる瞬間をとらえたい、という思いから制作が始まった。このシリーズでは「絵を描こう」というはからいが生まれた瞬間にやめるのだという。そんな作り手のはからいを超えた在り方が民藝と共通する、とホテルを運営する「水と匠」の林口砂里はいう。
〈楽土庵〉が民藝を軸としているのは、1948年に柳宗悦が砺波市に隣接する南砺市の〈城端別院善徳寺〉に滞在し、民藝思想の集大成となる著書『美の法門』を執筆した縁による。柳は東京での戦禍を避けて富山に滞在していた板画家・棟方志功に会いに南砺市にやってきた。
柳はこの地の精神風土を「土徳」(どとく)と呼んでいる。「土徳」とは自然や地形を象徴する土と人間がともに作り上げた、その土地ならではの品格のようなもので、それぞれの土地にそれぞれの「土徳」があるという。〈楽土庵〉はそこでゆっくりと時間を過ごすことで、その「富山の土徳」を体感できる場だ。