【海外トピックス】GM、フォードのEV戦略を再点検、“EVシフト見直しか!?”
GMはEVの未来には自信を持っている
GMは今回、シルバラードEVの2つ目の生産拠点となるミシガン州オリオン工場での生産開始を2026年半ばに延期すると発表しました。このシボレーの看板車であるフルサイズピックアップトラックEVの一般顧客向けモデルは納車が始まったばかりですが、ライバルのフォードF150ライトニングの販売状況を見ても需要は限られており、1年間で2度目の延期を決めました。 しかし、GMはEVシフトに懐疑的になっているわけではなく、今後アルティウム電池搭載車の生産台数が増えることで、バッテリーコストは30ドル/kWh削減でき、今年中に固定費を除いたEV単体での黒字化(variable profit positive)の達成を見込んでいます。バーラ氏も、「EVはトルクがあって運転が楽しいと考えるユーザーも多い」と述べ、宣伝広告を通して新しいEVの認知度を上げるとしており、着実に顧客を増やしていけると考えているようです。 また11月に大統領選を控え、政府のEV政策にどの程度影響を受けるかという質問に対しては、「政策の一貫性は望むが、政策如何に関わらずEVとICE車、そして主要なセグメントにおいては(プラグイン)ハイブリッドの『選択肢』を顧客に提供するフレキシビリティーを持たせる」としています。 GMは投資タイミングの調整や固定費の削減、部品やコンポーネントの点数削減や販売コストの最適化など財務的規律(descipline)に長けており、同時に自社株買いを積極的に行うことで株式価値を高めており、クルーズ問題が発生した昨秋は20ドル台に低迷した株価も現在は40ドルを上回っており、投資家やアナリストから安定した信頼を得ている印象です。
より多角的な経営を行うのがフォード
利益率や株価ではGMの後塵を拝するものの、20世紀初めにモデルTと大量生産方式で自動車の世紀の幕を開いたフォードは、2020年に就任したジム・ファーリーCEOの下、「フォード+」という計画を進めています。2021年からテネシーやケンタッキー、ミシガンにEVやバッテリーの一大生産拠点を建設する大規模投資を進めており、2022年にはマスタングマッハEやF-150ライトニングなどのEV生産を開始するなど、デトロイトのライバルに一歩先駆けてEV量産化へ舵を切りました。 F-150ライトニングは一気に3シフト生産体制まで確立しましたが、需要が伸びずにすぐに1直に縮小し、マスタングマッハEはテスラに準じて価格を大幅に値下げするなど過去2年間にジェットコースターのような浮き沈みを体験しましたが、これは同社に貴重な教訓を与えたようです。今年上半期のEV販売は44,180台でテスラに次いで第2位を維持し、値下げの効果もあってEVの販売は順調に推移しています。 フォードによれば、F-150のような大型車では大容量の搭載電池のコストが嵩み、ICE車とは逆にマージンが切り詰められるため、次世代EVの開発の主眼は小型車において、これで利益を出す考えにシフトしています。ファーリーCEOは、「廉価なEVの場合、(最大7500ドルの)政府補助金の割合も大きくなり、(燃料代やメンテナンス代など含めた)EVの維持コストの安さを顧客は身をもって体験できる」と、小型EVが市場に浸透する鍵だと考えています。 フォードは、小型ピックアップトラックの「マーヴェリック」やF-150にフルハイブリッド(HEV)車も備えますが、現在これらが非常に好調であり、さらに大型のFシリーズトラックにもHEVを投入する他、既存のプラグインハイブリッド車に加えて、EREV(レンジエクステンダーEV)も開発する意向です。その意味では、GM以上にフレキシブルなパワートレイン戦略を取っていると言えます。 事業領域をフォードブルー(ICE車)、モデルE(EV)、フォードプロ(商用車)の3つに分けて経営している点もユニークです。それぞれのユニットの利益や損失も個別に明示しており、モデルEは年間5億ドルの損失を出してブルー(2.1億ドル)やプロ(5億ドル)の利益を蕩尽しています。特に力を入れているのがプロで、鉱山開発や建設現場、救急車両などで5割前後のシェアを持つFシリーズスーパーデューティトラックはドル箱商品であり、商用デリバリーバンのトランジット(含EV)も高いシェアを誇ります。