「人からどう見えるかより、自分がどう楽しめるか 格好をつけない中年女性の血中おばさん濃度」ジェーン・スー
作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。 【写真】この記事の写真をもっと見る * * * 15年来の友人が大分から東京に遊びにきました。 15年。自分で書いておきながら驚きです。彼女とは旧ツイッター、現・がまだ牧歌的だった頃にネット上で知り合い、言うなれば遠距離友情を育んできました。それにしても、光陰矢の如し! 会うのは1年ぶりです。前回は私が講演で大分を訪れ、彼女が車で名所を案内してくれました。由布岳の紅葉の美しかったこと! 岡本屋の地獄蒸しプリンの美味しかったこと! 昨日のことのように覚えています。 15年も経つと、お互いの状況もさまざまに変化しています。ともにシングルライフを満喫していることに変わりはないけれど、どちらも親が高齢になりました。彼女は認知症をもつお母様と同居しています。お母様はデイケアに通ってはいるものの、仕事をしながらの在宅介護はなかなかに骨の折れること。普段は明るく楽しい彼女が、ほんのたまに送ってくる嘆きのLINEを、私は愚痴だとは思いません。私なぞ足元にも及びませんが、終わりの見えない繰り返しに疲弊してしまう気持ちは理解できるから。 今回、彼女と過ごすことができたのは会食の数時間だけ。虎ノ門ヒルズで夕飯を食べ、彼女のリクエストで東京タワーが見えるカフェでお茶をしました。東京都心に山はないけれど、タワーなら2本ある。 運のよいことに、カフェでは東京タワーがバッチリ見えるテラス席に座ることができました。混んではいませんでしたが、周りには数名のお客さんが。しかし、人の目を気にせずパシャパシャと写真を撮る私たち。お上りさんプレイです。若い頃には、格好をつけて絶対にできなかった。 お洒落なカフェでこういうことが朗らかにできるようになったのは中年の証し。格好をつけない中年女性の血中おばさん濃度に辟易としていた若かりし頃の私は、なにもわかっていなかった。 おばさんたちの日常には、いろいろあるんだよ。家族のこと、仕事のこと、自分のこと。それらの責務とストレスに比べたら、東京タワーをバックに何枚も写真を撮ることなんて、なんでもないこと。大声ではしゃぐような迷惑は掛けませんが、人からどう見えるかより、自分がどう楽しめるかを優先できるようになったのです。 翌日、彼女は大分に戻りました。また、お互いの日常が始まります。 じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中。 ※AERA 2024年12月2日号
ジェーン・スー