ホンマタカシが難民をカメラでとらえる意味。「PLACE OF HOPE 難民のものがたり展」のトークイベントで当事者らと語る
東京都世田谷区の二子玉川 蔦屋家電イベントスペースにて、6月20日の「世界難民の日」にあわせ、「難民のものがたり」をテーマとする本を選定・展示する企画「PLACE OF HOPE 難民のものがたり展」が6月23日まで開催されている。主催は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所。 その関連イベントとして、日本国内にいる難民の背景を持つふたりやその自宅を撮影した写真家・ホンマタカシ と、当事者ふたりによるトークイベントが15日開催された。このイベントでは、ホンマが撮影した写真や当事者ふたりの体験談を通じて、難民がたどる「旅路」について考えるものとなった。その様子を一部レポートする。 全世界の難民は1億2000万人に ホンマが対談したのは、アナスさんとスザンさんだ。シリア出身のふたりは、2011年のシリア内戦の被害を受け、国内や近隣国への避難を繰り返した末に様々なプログラムを通じて来日。現在では、日本で生活を続けながら、難民サポート活動を行う「EmPATHy」の初代共同代表を務めるなど、自身の経験も交えた支援を積極的に行っている。 ホンマは今回、このふたりの自宅に赴き、撮影を行った。ホンマはこのような世界規模の問題、そしてそれを背景とするパーソナルなことを撮影するうえで、「撮影って簡単だから難しい。人の家に行って写真を撮ることはできるけど、おふたりの境遇を聞いて自分に何ができるのかといまでも悩んでいる」といった葛藤があるようであった。また、撮影の仕方についても「被写体が日本人であろうと難民であろうと無理をさせない。当たり前のような日々の暮らしを写すことを心がけながら、本棚やキッチンなどその人のパーソナルな部分がわかるような場所を撮影した」という。 そして、今回の企画にあわせホンマは、欧州の移民問題を扱った書籍『第七の男』(ジョン・バージャー著、黒鳥社)を推薦している。「この書籍には多くの写真が掲載されており、視覚的にも理解しやすいものだ。内容は約50年前に発表されたもので、もはや誰が撮影したかは重要ではない。今回の僕の役割はこのように、なるべく僕らしさを出さないことだと思う」と、自身のスタンスについても語っていた。 ホンマタカシ×UNHCRの写真展が「瀬戸内国際芸術祭2025」で実施 また、ホンマは来年開催される「瀬戸内国際芸術祭2025」においても、UNHCRとのコラボレーションを実施。 国内外にあるUNHCRの支援所を巡りながら撮影を行い、難民一人ひとりの物語や旅路に焦点を当てた写真展を開催する予定となっている。ホンマはこれについても「まだ撮影を始めていないので、現時点ではなんとも言えない。ただ、この展示は僕の自己表現の場ではない。写真を通じてこの問題を皆さんに知ってもらうための機会となる」と一貫したスタンスで臨むという。 日本国内における普段の生活のなかで、難民の存在を意識する機会は多くない。また、日本に難民がいるという認識も、残念ながら決して高いとは言えないだろう。様々な背景を持つ人々と共生しながら生きていくためには、異なる文化を持つ相手を知ろうとすることが重要である、と当事者のふたりも自身の経験から語ってくれた。ホンマとUNHCRの取り組みは、我々がそういった難民問題やその存在に目を向けるための機会を生み出してくれるものとなる。
文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)