【解説】日産「悲願」達成後の泥沼 ホンダとの経営統合協議、救済色濃く
◆忍び寄る鴻海の影 日産とホンダは24年8月、電動化の技術開発や車載ソフトウエアの共同研究など、同3月に発表した両社の協業をさらに進める戦略を発表したが、協業の効果が出るのは先の話。日産の経営難への即効薬はなく、9月中間決算でも、営業利益が9割減に落ち込み、全世界で9000人の従業員リストラに踏み切るなど、先の見えない不振が続いていた。 内田誠社長への風当たりも強まり、取締役会の中からは経営刷新や役員報酬返上を求める声も上がっていたという。 関係者によると、今秋には、台湾の電子機器製造大手、鴻海(ホンハイ)精密工業から、日産に資本提携の打診があったとされる。ホンハイのEV部門の最高戦略責任者(CSO)には、日産出身で内田氏とかつて社長の座を争い、同社を退社した関潤氏が就任していた。ホンハイによる経営への関与を避けるためにも、日産側には、ホンダとの提携関係の強化を急ぐ必要があった。 ◆「悲願」達成が目的化 日産の不振の根底には、日産がルノーとの資本関係を見直した後の成長ビジョンを描けなかったことにある。 バブル崩壊後の経営難の際に、日産を救済したのがルノーだった。ゴーン体制の下で進めたリストラ効果で、日産はルノーやルノー株を保有するフランス政府に多額の配当という利益をもたらす打ち出の小づちになった。半面、日産にとって、ルノーからの支配脱却は「悲願」だった。 2023年、ルノーによる日産への出資比率を43%から引き下げ、日産によるルノー株の保有比率と同じ15%にすることで両社が合意し悲願を達成した。 コロナ禍にロシアのウクライナ侵攻、欧州市場での急激なEVシフトと、激変する世界情勢に、ルノー側もまとまった手元資金が欲しいタイミングだった。「ルノーによる日産支配」には、ルノーに出資するフランス政府の意向も強く影響していたが、日産はこの千載一遇のチャンスを逃さずに交渉に全力を傾けた。 両社は、欧州での電動化開発では今後も協業を続け、南米やインドでの協業も進めるとする一方、部品の共同調達は取りやめることを決定。事実上の「協議離婚」との受け止めも広がる中、日産には、次の一手となる成長戦略が求められていた。 しかし、かつての経営再建の過程で生じた複雑な社内政治闘争で、多くの経営幹部が日産を去った。中国での不振に加え、北米でHVの新車が投入できない状況を一朝一夕に打開する策はなく、V字回復に向けた決定打は見いだせていない。 ◆乏しいスピード感 統合協議は、今後、日産が筆頭株主の三菱自動車も交え、持ち株会社の下に3社をぶら下げる形などを模索していくとみられる。3社統合が実現すれば年間販売は800万台を超え、世界首位のトヨタや2位の独フォルクスワーゲン(VW)グループに続く3位連合となる。 経営統合検討が報じられた12月18日の東京株式市場で、日産株がストップ高まで値上がりしたのに対し、ホンダ株は下落。市場は「今回の統合協議を日産の救済策と受け止めた」(市場関係者)ようだ。 電動化に巨額の研究開発投資が必要になる自動車業界では「規模の経済(スケールメリット)」が一定の効果を上げるとみられる。 ただ、自主自立の気風が強いホンダと、長らくルノーや仏政府、経済産業省などの意向が強く働いた日産との企業風土の違いを指摘する声は、業界内に根強い。 事実、これまでの2社の協業の過程でも、日産の意思決定の遅さにホンダの現場担当者がしびれを切らす声が、幾度となく上がっている。ホンダ側は、今後も統合のメリット・デメリットを慎重に検討するとみられ、両社の交渉の過程で、激動の世界市場を生き抜くスピード感を維持できるかも大きな課題となりそうだ。 また、資本関係が薄まったとはいえ、統合に向けては、互いに15%の株式(議決権ベース)を保有するルノーとの関係をどう整理するかも含め、課題は山積している。