【スラムダンク】湘北高校に受けた影響。自分の心を動かす習慣とは
【スラムダンク】湘北高校に受けた影響。自分の心を動かす習慣とは
今回は、川崎ブレイブサンダースの2023-24シーズンキャプテンであり、ポイントガードとしてチームを率いる元日本代表の篠山⻯⻘選手と、スポーツドクターとして、一流選手たちに「心」の重要さを伝え続ける辻 秀一先生との対談をお届けします。 「心」というのは生まれ持った気質や性格ではなく、自分自身でコントロールできる「思考」なのだそうです。 スラムダンクの大ファンだというお二人、どんな対談になるでしょうか。 【動画でみる】<スラダン>〇〇を描きたかった…映画スラダンで井上雄彦先生が伝えたかったこととは!?
篠山竜青のライフスキルは「楽しむこと」映画スラムダンクで感じたポイントガードへの想い
篠山選手 今日はお会いできるのを楽しみにしていました。先生の「スラムダンク勝利学」は、中学時代にコーチがよくコピーして配ってくれていたので何度も読んでいます。もちろん漫画のスラムダンクも大好きですし、映画「THE FIRST SLAM DUNK」は4回観に行きました。 辻先生 映画、私は15回観ました(笑)。 篠山選手 ……参りました(笑)。 辻先生 漫画「スラムダンク」で好きなシーンはありますか? 篠山選手 全部が好きなので、困りますね。 強いて言うなら、海南戦でゴリが負傷して、花道がカバーしなければいけなくなった時、それまでは「自分が点を取りたい」「流川よりも活躍したい」だった花道が「今に集中」と腹をくくったところは、自分も何か教えられたような気がします。 辻先生 そういうのが試合のたびにありますよね、湘北高校は。 篠山選手 湘北高校って、スーパーヒーローがいるわけでもなく、それぞれコンプレックスもあるし、何なら普段は仲良しでもないのに、コートの中では認め合ってカバーし合って……。というのが響きますし、学びになります。辻先生の印象に残るシーンは? 辻先生 ゴリが山王戦で、まだ負けているのに「このチームは最高だ……」と言う場面です。 ⻯⻘くんがそんな気持ちになる瞬間ってありますか? 篠山選手 深い質問ですね(笑)。 望んだ結果が出なくても納得できた時、かな……。信頼できるチームメイトがいて、仮に自分がベンチにいたとしても「この5人で負けたのなら仕方ない」って思えると、いいチームになったなぁと感じるかもしれませんね。 辻先生 そういう思いを伝えることってある? 篠山選手 ないですね……。今思うと、学生時代の方が、チーム内で気持ちの深い部分を伝え合うことが多かったかもしれません。 辻先生 学生と社会人では違いますよね。 篠山選手 全然違いますね。同じ社会人でも、昔と今では違いますし。 辻先生 どんな風に? 篠山選手 僕がこのチームに入った頃は社員チームでしたが、今はプロチームで、給与形態も異なります。 今は、試合で活躍できなければ選手として生き残れませんから「自分が活躍すること」が大前提になってしまいます。そういう意味ではさっき僕が言った「自分がベンチにいたとしても納得できる」というのは、ただの綺麗事かもしれませんよね。その葛藤は今「プロになりたて」として感じます。どっちが良いかではなく「こんな風にプロになっていくのか……」と実感しているところです。 辻先生 キャプテンとしてはどのように感じていますか? 篠山選手 うーん……。全員が目標を共有して、どういうルートで行けば良いかをみんなで考えることが理想ですが、それぞれの行きたい場所が異なる場合もあります。選手一人ひとりに色々な考えがある中で、みんなで目標を共有しながらルートを作っていくところに難しさを感じますね。 辻先生 「目標」を共有するのは大事ですが「目的」を共有することはありますか? 篠山選手 ……ないかもしれないですね。 辻先生 目標達成率の高い集団って、目的、つまり「なぜそれを目指すか」を明確にしていることが多いです。勝つ目的のあるチームってやっぱり強いですよね。目標だけを追い求めるとブレやすくなります。 篠山選手 なるほど。 「勝ちたい」「活躍したい」までの間に、それぞれ色々なものがありますからね。 辻先生 ⻯⻘くんから「目的を考えてみよう」とか、みんなに発信してみたら? それぞれバラバラであっても、答えが出なくても、みんなで目的を考えて、共有することってすごく重要な気がします。 篠山選手 本当にそうですね。 辻先生 例えば甲子園球児に「目標」を聞くと、絶対にみんな「勝ちたい」「優勝したい」と言います。でも「どうして?」と「目的」を聞くと、答えられる球児はあまりいません。そんな中、2023年の夏に優勝した慶應高校(慶應義塾高等学校)の球児は「“エンジョイベースボール”を広めたい」「自分たちが勝つことで、楽しみながら強くなれると示したい」と言っていました。そういう「内なるエネルギー」は強い。 篠山選手 湘北高校にもそれぞれの「内なるエネルギー」がありますよね。 ~湘北高校のライフスキル~ 桜木 花道:何事にも一生懸命。バスケットボールと湘北高校に出会い驚異的な成⻑を遂げる。 流川 楓:常に自分のプレーを追求する負けず嫌い。 赤木 剛憲:根拠なき目標を掲げ情熱と強さでチームの団結力を高める。愛称は「ゴリ」。 宮城 リョータ:切込隊⻑として素早い動きと的確な判断力でバスケを楽しむ。 木暮 公延:的確な指導力と統率力でチームをサポートしていくシックスマン。 三井 寿:情熱を再燃させチームの活躍に貢献した最後まであきらめない男。 ※ライフスキル:自分の心を整えるためのスキル 辻先生 それぞれが異なりますよね。例えば花道なら「一生懸命」、流川は「チャレンジ」、ゴリは「根拠なき目標」、リョーちんは「楽しむ」とか。その一つひとつが、自分の心を整えるためのスキル「ライフスキル」でもあります。 例えば木暮はみんなを「応援」していますが、人を応援するというのは自分の心を豊かにしてくれますし、三井は「あきらめない男」ですが、その背景には「今に生きる」があります。「あきらめる」って、未来を考えてしまうからこそ生まれる選択肢で、今に生きていれば、あきらめることはないんですよ。 ⻯⻘くんのライフスキルは? 篠山選手 一番大事にしているのは「楽しむ」ことですね。 北陸高校時代に、キツい練習の時こそバカになって大声を出す、キツさも楽しめると喜びになると学んでからは、「楽しむ」をずっと自分の基盤にしています。 辻先生 ⻯⻘くんのプレーから、それは伝わってきます。 スラムダンクの映画ではどんなところが印象に残りました? 篠山選手 山王戦でのラスト、プレー前にリョーちんがハドルを組んで「きっと最後にもう1回プレスがくるだろうから、ゴリは俺じゃなくて流川を見てほしい」と伝えたところです。 その後、パスを封じられそうになったゴリにリョーちんが「俺じゃない。逆を見てくれ」とアイコンタクトし、流川へパスをしたことで得点に繋がりました。 辻先生 逆転ゴールのシーンだ。 篠山選手 あのシーンでは、リョーちんは一度もボールに触れていませんが、あれこそがポイントガードのプレーであり、リョーちんのプレーだと思っています。 作者の井上(雄彦)先生があんな風にポイントガードを描いてくれたのがすごく嬉しかったですね。 辻先生 漫画では描かれていない部分ですよね。 篠山選手 僕、2019年に井上先生と対談したんですよ。その時に先生が「(漫画では)ポイントガードを描き切れていないと思っている」とおっしゃっていました。その時はもちろん映画制作中とは知らず、そうなんだ、くらいに思っていましたが、2022年になって映画を観た時「あの日の言葉はそういうことだったのか!」と身震いしました。 辻先生 だから主役はリョーちんだったんだ! すげぇ……。 篠山選手 先生はどのように感じましたか? 辻先生 私は、あれは「親子の物語」だと思っています。 山王戦が終わって湘南の海岸で再会したカオル(母)とリョータが「おかえり」「ただいま」と言葉を交わすシーン。あれは、亡くなったソータ(兄)と自分を比べて苦しんでいたリョータが、自分自身に戻った瞬間のように感じました。 篠山選手 あのシーン、いいですよね。ハグするわけでもなく、ちょっと控えめなところがまたリアルで、2人の感情が伝わってきます。 辻先生 井上先生は映画を通して「みんな、あるがままの自分でいても良い」という「自己存在感」を伝えたかったんじゃないかな……とも思っています。