うつ病を発症…まず考えるべきことは 専門家が助言する「自然治癒力が発揮されやすい」治療
過重な業務で亡くなる人をなくすための「過労死等防止対策推進シンポジウム」(厚生労働省主催)が1日、福岡市で開かれた。今月は過労死等防止対策推進法の施行から10年の節目。仕事が原因で精神障害を患ったり、それによって自ら命を絶ったりして労災認定される人は今なお相次いでおり、心の不調に陥る仕組みや職場の対処法を精神科医が解説した。遺族の体験発表もあり、夫を亡くした女性が過労死撲滅を訴えた。 (編集委員・河野賢治) 【画像】増加傾向の精神障害の労災申請と認定の状況 基調講演をしたのは精神科専門医の高野知樹氏。厚労省が設けた働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」の運営に携わる委員会の委員長も務める。まず始めに、仕事の量や質、対人関係がストレスの大きな要因となり、身体や心理、行動に影響を及ぼすことを挙げた。 うつ病などを発症した際は、まず「働きながら治すこと」を考えるべきだという。生活を大きく変えずに経過を観察することが望ましいためだ。治療や業務上の配慮を受けても回復しない場合や、症状が重いケースは仕事を休んで治すよう求めた。 治療は身体の病気やけがと同様に、定時で帰宅するなどの「休養」▽薬物療法による「症状の緩和」▽医師の助言や指導といった精神療法で「再発を防ぐ」-という手順で進める。高野氏は「まずは苦しみを和らげること。体をいたわると自然治癒力が発揮されやすい」と助言した。 ∞∞ 精神障害の労災申請と認定件数は増加傾向が続いている。労災申請は2023年度、過去10年間で最も多い3575件。労災認定も過去10年で最多の883件だった。認定されたケースのうち、自殺(未遂を含む)は11~23年度の単年度ごとに60~90件台に上る。 労災の審査は、労働時間の長さや、本人に起きた出来事の内容という客観的な「負荷」を重視する。高野氏は、同じ負荷でも個々人によって負担の感じ方は異なるとし、「職場はまず負荷の軽減を考えるべきだ。多くの人にとっては大丈夫でも、特定の人には負担になっていないか配慮する必要がある」と訴えた。 職場の相談体制も欠かせない。心の不調に陥った人が苦痛を訴える際、自分のことを順序立てて話そうとするため、自身で頭の中を整理できるという。悩みを明かされた側も「信頼してくれた」と感じ、相談する側と受ける側の双方にメリットがあると呼びかけた。 ∞∞ 心の調子を崩した人が休職した後、職場に戻る際の注意点の説明もあった。高野氏は三つのステップを示し、当事者が状態を点検するようアドバイスした。 一つ目は、苦痛が日常生活に支障がない程度まで回復しているか。二つ目は、食事や睡眠の他、興味のあることをできているか。「『食う、寝る、遊ぶ』という、自分がしたいことをできているか」と表現した。 三つ目は、決められた日課や毎日の通勤、就労を継続できる準備が済んでいるか。「しなければならないこと」が、できるかどうかが判断基準になるという。 こうした決まり事をできるようにするため、新聞の活用も提案した。(1)記事を読む(2)書き写す(3)要約する(4)それを口頭で述べる-という流れで、図書館に毎朝通い、書き写しや要約をすることも例に挙げた。 最後に呼びかけたのは周囲の対応。当事者に対し、行動の変化に気付いて声をかける▽本人の気持ちを尊重して傾聴する▽状態によっては専門家への相談を促す▽温かく、じっくり見守る-ことが必要という。 高野氏は「病気に詳しいことは必ずしも必要ない。本人の変化に気付き、今のうちに何ができるか考え、行動してほしい」と強調した。