大手企業を早期退職した男性(57)に立ちはだかった求職活動の高い壁「50代の挑戦がこんなに厳しいとは…」
「50代の挑戦に優しくない社会」
しばらくは「どうしてこうなってしまったんだろう」と自分を責めたり、後悔の念に苛まれる日々を送っていた。経済的な面でも家族の不安そうな表情を見るたび、「もう少し我慢できなかったのか」と思う気持ちもある。 そんな中、失業手当を受給するために行ったハローワークで、職業講習を受講したことが一筋の光となった。 「この年齢で新しいことを学んで挑戦できたことがとても楽しくて、新しい友人にも恵まれ、少し前向きになれた自分がいました」 受講を終えたものの、「受講した職業は向いてない」と感じた伊藤さん。そこで心機一転、新たに求職活動を始めたが、日々痛感するのは高すぎる“年齢の壁”だ。 「『何歳からでも色んなことはできるよ』といいつつ、日本社会って50代で新しい挑戦をする人に優しくない社会だなとは感じます。求職サイトで応募しつつも、簡単には決まりません。今の時代、人手不足なので30、40代だと未経験でも範囲を広げればすぐ仕事が見つかりますが、50代だと経験有でも年齢で弾かれてしまう」
職を失って得たもの
57歳で職を失ったが、それでも得たものも大きかった。 「これまで仕事を最優先にしてきたので、家族の時間が増えたことは辞めて得られたことだなと思います。当時は忙しすぎて、国内の家族旅行でさえ渋っていましたので」 そう語る伊藤さん。現在は末っ子が語学留学中のヨーロッパに妻と旅行中だといい、現地からオンラインで取材に応じてくれた。 「仕事で一番辛かったときのことを最近よく思い出すんです。今考えると、なんで家族よりもあんなに仕事を優先して生きてきたんだろうとか、どうしてあんなに感情を押し殺してきたんだろうとか…。 まだ新しい仕事すら見つかっていないですが、これからは今まで蔑ろにしていた家族との時間を大切にしようと思っています。そして自分の心身の健康を大切に生きていきたい。それが第二ラウンドの人生の目標ですかね」 そして、60歳以降の働き方に関しても一つの志しがある。 「お金を貯めて死んでいく人が多いのは、みんな不安だからなんです。自分ではもう稼いでいくことができない。前の会社で働いていたとき、『これから自分も年金と退職金を抱えてお金が減っていくのを不安に感じながら、ただ生きていく人生なのかな』って思うとすごくつまらないなと感じてしまって。 だから、これからは定年に縛られない働き方をしていきたい。それが自分にとっての幸せな生き方だなと感じています」 そう話す伊藤さんの口調からはどこか力強さが垣間見れた。 取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部
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