「頭の回転が速いのに何も考えてない」という残酷な悲劇…絶対に知っておきたい「思考を深める極意」
「哲学」「ビジネス」「アート」を深掘りする
例えば、「これからのビジネスにおいて求められている思考は何か?」というテーマのディスカッションを事例に、擬人化の方法について説明していきます。その中で、「ビジネス」、「アート」、「哲学」という3つの言葉が出てきたならば、それらが擬人化されて理解されるべき対象です。 抽象的な概念を整理するためには、「その概念は、(1)何に対して[対象]、(2)何を行う[働き]ものとして想定されているのか?」ということを問うことによって、その概念の「仕事」や「役回り」を明確に理解する(言い換えれば「擬人化」する)必要があります。この問いに、(3)「何によって[手段]」、(4)「何のために[目的]」、(5)「いつ[時期]」、(6)「どこで[場所]」という補足事項を付け加えると、さらに定義を明確化することができます。 例えば「哲学」という抽象的な概念に対して、「哲学とは、別様の世界観を探究するために、常識的なものの見方に対して問いを投げかけるものである」という定義を当てはめてみることにしましょう。このように「哲学」概念の定義を整えたなら、私たちは「哲学」という抽象的な概念を議論の中で迷わず使うことができます。 例えば「問いを投げかける」という行為ができていなかったら、それはどれだけ奇抜な主張をしていても「哲学」にはなりえませんし、たとえ「問い」を投げかけていたとしても、それが別様の世界観を探究するためでなかったら、やはりそれは「哲学」にはなりえないのです。 このように整理をすることで、私たちは抽象的な言葉が飛び交う議論の中でも、迷うことなく「哲学」という言葉を使って自分の意見を述べることができます。逆に、こうした整理がおぼつかない状態で抽象的な概念を使ってしまうと、「自分自身何を言っているのかよく分からない」という状態に陥ってしまうのです。 「アート」という概念もそれだけでは抽象的ですので、その意味内容を具体的に規定する必要があります。今回は、便宜上「アートとは、鑑賞者に対して、非言語的な方法によって新たな世界の見方を提供するものである」という定義を仮に採用しておきましょう。 また「ビジネス」に対しては、「ビジネスとは、新たなヴィジョンを社会に提示しつつ、顧客に対してサービスやプロダクトを提供することで、対価を得る営みである」という定義を仮に採用することにしましょう。 このように、それぞれの抽象概念の意味内容を整理することができたなら、あとはそれらを「人物」であるかのように「抽象概念の相関図」の中に組み込んでいくだけです。ここで、先ほどの定義を参考にしつつ、それぞれの人物の「仕事」や「技能」について改めてまとめてみましょう。 ◯「ビジネス」は、単にお金を稼ぐだけではなく、未来のヴィジョンを求めながら仕事をすることを目指している。 ◯「アート」は、目の前の常識に囚われず、目に見えないものを可視化する力を持っている。 ◯「哲学」は、「問い」と「言語化」の力を通して、今とは異なる世界の在り様を探究することができる。 このようにそれぞれの登場人物の特徴を押さえることで、お互いの関係性についてまとめることができます。 例えば「ビジネス」は、未来を予想するための「ヴィジョン」を求めています。こうした意味でのヴィジョンとはまさに「まだ見えないものを見る」という意味で「先見」や「見通し」を表しており、したがって「目には見えないもの」です。 こうしたヴィジョンを求めている「ビジネス」の要求に、「アート」は応えることができます。なぜなら、「アート」は「見えないものを可視化する」という特殊な技能を持っているからです。「アート」のお陰で、私たちが目指すべきヴィジョンは画像や映像の形でクリアなものになります。 ですが、ヴィジョンの優れているところを言語的に(論証という形式で)説明することに長けているのは、やはり「哲学」です。確かに「アート」と「哲学」は、既存の常識や世界観に囚われない想像力を人々に与えるという力を共通して持っていますが、ヴィジョンを論理的に説明する使命を持っているのは、「哲学」の方なのです。 「ビジネス」は、「アート」から受け取ったヴィジョンの魅力を周りの人に説明するために、「哲学」にもサポートを求めています(「アート」から着想を得るというのは「哲学」も同様です)。 このように、「ビジネス」、「アート」、「哲学」は、三者三様の使命や仕事を持ちつつ、それぞれが固有の関係を有しているのです。 さらに連載記事<アタマの良い人が実践している、意外と知られてない「思考力を高める方法」>では、地頭を鍛える方法について解説しています。ぜひご覧ください。
山野 弘樹(哲学研究者)