平井一夫「ダメな上司を持った時にどうするか?」 一番よくないのは不満げな態度を見せること
特に人間関係を理由に、衝動的に辞める選択肢を取るのはおすすめしません。なぜなら、どこに行っても人間関係の悩みは付きものだからです。だからこそ、いろいろな人間がいる中でどうコミュニケーションを取って仕事をするかが問われているわけです。その努力をろくにせぬまま「上司とソリが合わないから辞める」では、おそらく次に働く場所でも同じ壁にぶつかるでしょう。 こうして仕事人として必須の素養を培えぬまま職場を転々としていたら、当然、立場も給料も上がりません。何より仕事にやりがいを感じられず、何かを成し遂げる喜びを味わう機会にも乏しくなってしまう。そんな仕事人生を送りたい人はいないでしょう。
ですから、「この会社、辞めたいな」と思ったときには、まず、そう思わせている原因について、本当に辞める理由として妥当なのかを冷静に考えてみる必要があります。ひょっとしたら、あなたのちょっとした意識や行動により、「辞めたい」と思った原因が解消あるいは縮小するかもしれません。そうしたら、相応に労力のかかる「辞める」「転職する」という選択をせずに済みます。 さらには、そこを出発点として、今の仕事に少しずつ楽しみを見出し、今の会社で働くことに少しずつ喜びを感じられるようになったら何よりでしょう。
転職を考えてはいけないということではありません。取ろうと思えばいつだって、転職という選択肢を取ることができる。いわば切り札として「転職」を手元に置いた状態で、まず、今の環境でベストを尽くす方法を考えてみようという話なのです。 「ここしか居場所がない」と思うと、悲愴感と共に会社にしがみつくことになってしまいますが、転職という切り札があると思うだけで気持ちに余裕ができるはずです。 特に現代、転職は珍しくありませんから、「辞めようと思えばいつでも辞められる」「転職しようと思えばいつでも転職できる」と思っていても問題はないでしょう。すると、より大らかな気持ちで今の環境を眺め、そこでの過ごし方についても考えやすくなると思います。
平井 一夫 :ソニー元CEO、 一般社団法人プロジェクト希望代表理事