ADHDの診断を受けた小説家が、自身の内面"探検を綴った"エッセイを刊行
近年、「大人の発達障害」という言葉をよく耳にするようになった。発達障害は脳機能の発達に関係する障害で、主に自閉症スペクトラム障害、学習障害、そして注意欠陥多動性障害(ADHD)が該当する。 【書影】『あらゆることは今起こる』 こうした中、ADHD当事者となった小説家のエッセイが話題を呼んでいる。野間文芸新人賞受賞作『寝ても覚めても』や芥川賞受賞作『春の庭』などで知られる、柴崎友香さんの『あらゆることは今起こる』だ。執筆の経緯と出版の反響について、本人に話を聞いた。 * * * ――本書の原稿は、執筆依頼を受けたわけではなく、自発的に書き始めたそうですね。 柴崎 はい。もともと自分には発達障害な部分があると感じていたので、かねて診断を受けてみようと思っていました。そこで、診断を受けたり、自分の特性と向き合ったりすること自体が面白そうだなと思い、職業柄その体験を書いてみようと思ったんです。 でも、ADHDについてよく知られているのは「片づけられない」「遅刻する」「忘れ物をする」などの"困った"特性です。それゆえに面白くネタっぽい語りになりがちですが、それもまたイメージを固定する面があり、当事者目線でもう少し違う形でADHDについて書けないかと考えていました。 そのときにちょうど医学書院さんの「ケアをひらく」シリーズから横道誠さんの『みんな水の中-「発達障害」自助グループの文学研究者はどんな世界に棲んでいるか』(2021年)が出版されました。 これがまさしく発達障害を当事者目線で語っている本で、そこには「ADHD当事者が自身の体験を語る本は少ない」と書かれていたんです。この「ケアをひらく」シリーズなら、枠にはまらず、いろんな読み方をしてもらえるのではないかと思い、ご連絡をしました。 ――本書を書かれる際には、これまでのエッセイと比べて、文体の工夫などはされましたか? 柴崎 小説でもエッセイでも、そのたびに文体や語り方を考えてはいます。今回でいうと、自分自身がADHDの診断を受けた当事者といっても、その特性や生活の困り事は普遍的なものではありません。 それらは人によって違いますし、似たような困り事があっても、その原因は発達障害以外の場合もあります。どういう留保をもってそういった点を伝えるかは、かなり考えながら書いていました。