「おまえにシンカー投げるなんて10年早いわ」投手の自己顕示欲をくすぐる打者とは・山田久志さん プロ野球のレジェンド「名球会」連続インタビュー(39)
ピッチャーの独特の自己顕示欲というか、自分の世界を自分でつくる感性みたいなものが出てしまう打者というのがいるんだよね。それは私は落合とのシンカー勝負だったり、カドちゃんとの真っすぐ勝負だったり。清原和博には「シンカーなんか投げてやるか。まだ10年早いわ」ってね。何だろうね、ある種のこだわりを持って投げてるって。そういう楽しさも感じないと、やっていけない商売なんだろうね。 ▽一喜一憂しないのが本当の勝負師 一つだけ考えているのはプロ野球の高校野球化。私としてはちょっと残念。1本打ってガッツポーズしたり、いい守備してお客さんにアピールしたり。プロとして見せるんだから、ああいうのはやってほしくない。小さくパッとするのは格好いいけど。ヒットを打って塁上で万歳して、1イニング終わったら、みんながベンチから出てきてハイタッチ。少しプロとしてどうかなと思っている。 本当の勝負師は、自分がいい仕事をした時は、もろ手を挙げて喜ばない。サヨナラ打でゲームを決めた時とか、試合が終わってマウンドにいた時は喜びを爆発させていいけど、ゲームがこれからどうなるか分からないのに途中でガッツポーズをして「やったぜ俺は」というのは勝負師じゃないですよ。最後に決まった瞬間に、よしと思って表現するのが勝負師。高校野球は1打席、1球が必死だから分かるけど。
イチローは(2009年の)WBCの韓国戦で決勝打を打った時、何にもせず黙って塁上に立っていた。あんたら、そこで騒ぐなって感じで。ベンチは大騒ぎしてるけど、やつだけが一人違うところの世界にいるようで。やりたいけど、そこをがっと抑える。普段から意識してないと、やっぱり喜んでしまいますよね。そういう本当のプロが少なくなってきた。 × × × 山田 久志氏(やまだ・ひさし)秋田・能代高―富士鉄釜石からドラフト1位で1969年に阪急入団。下手投げからの速球、シンカーを武器に2年目から17年連続2桁勝利。76年から3年連続でパ・リーグ最優秀選手。名球会入り条件の200勝は82年4月に到達。通算284勝は歴代7位。2002、03年に中日監督を務めた。48年7月29日生まれの75歳。秋田県出身。