医療機器の「装着型サイボーグ」化からその先へ―CYBERDYNEが目指す社会像と現在地
人とAIロボットと情報系が融合した「サイバニクス」の社会実装を目指す、筑波大学発のベンチャー企業「CYBERDYNE」。1991年、「Hybrid Assistive Limb(HAL)」の基礎研究開発を開始して以降、その用途は治療用途から作業支援、高齢者や障がいい者の自立支援などへと広がっている。だが、それは同社が目指す社会の実現に向けたステップの1つだ。新しい学術領域としてのサイバニクスを創出し、さまざまなテクノロジーの実用化を進める山海嘉之社長(筑波大学サイバニクス研究センター研究統括/システム情報系教授)に、CYBERDYNEおよびHALの現状と展望などを聞いた。
◇「テクノピアサポート社会」実現に向け、取り組み
CYBERDYNEが目指す社会像の1つが「病気や要介護の予防と早期発見、発症後の機能改善治療、退院後の生活期の自立支援をシームレスにつなぐことに力点を置くことで患者、要介護者の数が減少。それに伴い、公的資金の支出も減る」ことだ。山海氏は「健康未来社会」をキーワードに、誰ひとり取り残さないイノベーションを通じて、人とテクノロジーが共生し相互支援する「テクノピアサポート社会」の実現に向けたさまざまな取り組みを続けている。 予防や早期発見、医療・健康ケアによる高齢者や障がい者の自立度の向上、見守りや生活支援による自由度の向上、繰り返しの重作業などに従事している人々の「健康」の観点から適切な労務環境の整備、AIや自動化による超効率化など、人や社会に関わる複合課題を新領域のサイバニクス技術を駆使し推進する。そうした社会課題解決のため、ロボット産業、IT産業に続く「サイバニクス産業」を創出し、あるべき姿の未来に向けて事業を進めている。 さまざまな取り組みのなかで、先んじて革新的医療機器として実用化されたテクノロジーが「装着型サイボーグHAL(以下「HAL」)」だ。当初は「ロボットスーツ」という呼び名でメディアを賑わした。1991年頃に医療用途を目指して始まったといわれるHAL開発の歴史のなかで我が国のイノベーション政策が果たした役割は大きい。日本を代表する研究者わずか30人に当初2700億円を配分する事業として計画され、2009年に始まった内閣府の「最先端研究開発支援プログラム(FIRST):~2014年)」に採択。続けて、同じく内閣府の「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT:2014~2019年)」、2023年には「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」で、それぞれ山海氏が代表者となるなかでHALは飛躍してきた。