医療機器の「装着型サイボーグ」化からその先へ―CYBERDYNEが目指す社会像と現在地
◇「医療前期」「医療後期」への展開も
さらに、HALの活用は病院の中だけにとどまらず、「Pre-Hospital(医療前期・生活期)」と「Post-Hospital(医療後期・生活期)」への展開も進められている。 その1つとして、HALを使った運動プログラム「Neuro HALFIT」がある。HALを装着して毎日、立ち上がりとスクワットを続けた80歳代後半の男性が、3カ月後には開始前の倍以上のスピードで歩けるようになったとする動画が、CYBERDYNEのウェブサイト(https://store.cyberdyne.jp/)で公開されている。この事例で使用されたHAL腰タイプは、装着すると、着席状態から立とうとした瞬間に自分の体の一部のようにHALが機能し立ち上がることができる。同時に、脳神経系の活動ループが賦活化される。立ち座り運動などを無理なく繰り返し行うことで、身体機能の向上が促進される。「寝たきりになりかけた人がHALを使うと、1カ月後にはHALなしでも自分で立ったり、普通に歩いたりします。要介護になることを防ぎ、自立度を高めることができるのです」と、山海氏はその効果を説明する。 このNeuro HALFITはCYBERDYNEが展開する全国17の「ロボケアセンター」で受けることができる。さらに運動の機会を増やし、生活の質を高めたいという要望に応えるため、HAL腰タイプを個人向けにレンタルするサービス「自宅でNeuro HALFIT」も行っている。脳神経系疾患やフレイル(「加齢により心身が老い衰えた状態」長寿科学振興財団)などで立ちすわりや歩行が困難になっている人たちのHALを使った運動を“日常化”させる施策だ。施設に通うよりも安価かつ頻回にHALを使用することができる。 HALをはじめ、CYBERDYNEの全てのデバイスはIoH(Internet of Humans:人の行動や各種生体情報などを常時データ化し、インターネットを通じて収集、解析すること)、IoT(Internet of Things:あらゆるものがインターネットにつながること)化され、つながっている。そのため、サポート要員なしで自宅でHALを使用しても、収集したデータによってロボケアセンターからの遠隔からのサポートや、医療機関の専門スタッフによる身体状況の掌握と機能向上に向けた支援ができる。こうしてNeuro HALFITの活用により、家庭・職場・生活空間における「予防」や、医療を受けた後の「機能向上、自立支援」までをシームレスにつないでいく。