毒の強さはコブラクラス!? おとなしくても油断できない毒ヘビ・ヤマカガシの「生態と対策」
ヤマカガシはなぜ無毒だと思われていた?
1970年代まで無毒ヘビという認識が一般的だったヤマカガシ。1984年に咬まれた中学生が亡くなった事故をきっかけに、毒ヘビという認識が広まりました。 「無毒とされていた理由ははっきりとはわかりませんが、毒が入るまでのステップが長いのは、ひとつの要因となっているでしょう」と西海さん。 「まず、おとなしいのでそもそもあまり咬まれることがありません。また、マムシやハブの毒牙が口の前側にあるのに対し、ヤマカガシは奥にあります。つまり、深く咬まれないと毒が入りにくいという構造です」(西海さん) 「さらに、毒牙の形状も異なります。マムシやハブは注射器状ですが、ヤマカガシは牙で傷つけて、根元から出る毒を染み入らせるような構造です。そのため、深く、長く咬まれないと毒が体内に入らず、毒の被害につながりにくいんです」(西海さん) この話を聞くと、あまり怖がらなくてもよさそうな気もしますが、万が一毒が入ると大変です。 「過去50年間に5人がヤマカガシに咬まれて亡くなっており、10年に1人死者が出るという状況です。亡くなるのは子どもと高齢者で、咬まれるのはほとんどが子どもです」(西海さん) 命が助かったとしても症状は重いので、咬まれないように最大限の注意を払いたいもの。ヤマカガシの毒はどんなものかを、詳しく見ていきましょう。
内出血を起こさせるヤマカガシの毒
「ヤマカガシの毒には血液凝固作用がありますが、体内に入ると組織の弱いところで内出血が起こります」と西海さん。 凝固作用なのになぜ出血するのか、それは私たちの体の防御反応のようです。 ヤマカガシの毒が体内に入ると、血液が固まって血栓ができます。このとき、血液中のフィブリノーゲンという凝固因子が大量に消費されます。体はこの血栓を溶かそうとしますが、その際に歯茎や内臓、毛細血管などの弱いところで内出血が起こります。このとき、フィブリノーゲンが少なくなっていて、止血しにくい状況となります。その結果、脳内出血などが重篤化し、死に至る可能性があるのだそうです。 「毒の作用は血液凝固なのですが、内臓や脳内で出血を引き起こすので、『出血毒』と誤認されることがあるようです」(西海さん) なお、咬まれてもマムシのような痛みや腫れはあまりないので、毒が入ったかどうかの判断がしにくいのもやっかいな特徴です。 「咬まれても目立った外的変化はないので、自己判断は危険です。脳出血が頭痛として観察されたりもしますが、症状がなくてもすぐに病院に行ってください。可能なら、ヘビの種類がわかるように写真を撮っておくといいでしょう」(西海さん)