【中の機械によって違う振動数】時計を実際に作ってわかった。シチズン、セイコーなど国産汎用ムーヴメント事情(4)
筆者自身が時計を作るようになって知った国産の汎用自動巻きムーヴメントについて、半年ぶりとだいぶ期間が空いてしまったが、第4回をお届けする。今回は「振動数」についてだ。 【時計の詳細写真をもっと見る(10枚)】 機械式腕時計に搭載されている自動巻きムーヴメント。その性能を表すものに振動数というものがある。毎秒8振動とか毎時2万8800振動とか記載されているのがそれだ。時計が好きな人以外は何のことやらわからないのではないか。 いまの自動巻きムーヴメントは優秀なためそれほど気にすることはないのかもしれないが、一応目安としては知っておいて損はない。 上の写真を見てもらいたい。写真の下側にあるピンクのパーツが設置されている部分が心臓部だ。そこに輪になった金色の円形パーツが確認できるだろう。それが“天輪(てんわ)”と呼ばれるもので、その軸となる“天真(てんしん)”、そして天輪と天真を繋ぐアームなどから構成され、これをテンプと言う。 大雑把にいうと常にこのテンプが回転往復運動することで時間を刻んでいくというのが機械式時計の仕組みだ。 つまり振動数とはこのテンプが1秒間に何回往復したかを表す値。 例えば6振動といえば1秒間で左右に6回、すなわち3往復するということになり、毎時、つまり1時間(3600秒)で換算するとテンプが2万1600回振動するということになる。 主に採用される振動数は毎時1万8000振動(5振動/秒)、毎時2万1600振動(6振動/秒)、毎時2万8800振動(8振動/秒)、そして毎時3万6000振動(10振動/秒)だ。ただ、一般的なのは2万1600振動と毎時2万8800振動である。 この振動数は、時計の精度と関係が深い。なぜかというと振動数は高ければ高いほど時刻の精度が増すからだ。 テンプを、回転させて遊ぶ玩具のコマに置き換えてみるとわかりやすい。コマの回転数は早いほど姿勢は安定する。つまり、テンプも往復運動が早ければ早いほど安定し、高い精度が出しやすくなるというわけだ。そのためスイス製高級機械式腕時計の多くは毎時2万8800振動に高振動化された自動巻きムーヴメントが使われている。 さて、ここに取り上げたアウトラインのコンプレダイバー1960(4万9500円)。これに搭載しているのはシチズン傘下のミヨタ製である。10万円以下で機械式モデルを展開する海外メーカーもこぞって採用するほど優秀な汎用ムーヴメントだ。もちろん日本でもアウトラインのように、大手時計メーカー以外の小規模ブランドの多くが機械式モデルに採用する。 ただ、同社の自動巻きには8000系と9000系の2タイプがあることを意外に知られていない。つまりミヨタ製自動巻きを採用した時計だからといって、すべて同じ性能ではないということだ。 では何が違うのか。大雑把にいうと大きく二つある。 ひとつは振動数である。前者は毎時2万1600振動、対してコンプレダイバー1960が採用する9000系は毎時2万8800振動と高性能機に位置付けられる。そのためムーヴメント自体の価格も高い。 もうひとつはムーヴメント自体のサイズ、特に厚さ(高さ)である。8000系よりも9000系のほうがかなり薄い。これも時計の外観や装着感にも影響するため開発にあたっては重要なポイントとなるのだ。 日本製ということもあって世界的に非常に多く使われているミヨタ製の汎用ムーヴメント。8000系か9000系かという点もチェックポイントのひとつとして覚えておいて損はない。 ちなみに、セイコー傘下の外販ムーヴメント会社TMIが供給する汎用自動巻きのベーシックな3針ムーヴメント、NH3系においては2万1600振動となる。 文◎菊地吉正(編集部)
菊地 吉正|パワーウオッチ、ロービートなど時計専門誌の発行人兼総編集長。時計ブランド「アウトライン」も展開。ロレックス通信連載