【女性弁護士座談会】朝ドラ『虎に翼』と法曹界のジェンダー問題 鴨志田祐美/武井由起子/大沼和子
家庭裁判所と少年事件
――大沼さんは裁判官と弁護士両方経験されてどうでしたか? 大沼 私がいわゆる“イソ弁”だった時は、依頼者から「男性に替えてくれ」と言われたことがあったり、私のほかにもう一人男性の弁護士がいたんですが、会社の事件はそちらの男性の方に行く、離婚とかいわゆる家事関係は私の方に振られる。私はそれがとっても不満でした。家事事件は大切な事件で、自分が望めば家事事件に専念するというのも弁護士としての一つの在り方ですが、そうでない弁護士にとっては家事事件だけが弁護士の仕事というのは違うと思います。 また、家事事件が女性に振られるというのは、家事事件は女子どもの世界で簡単にできるからみたいな、たぶんそういう思い込みや誤解があると思うんですね。 この点、さっきのブルーパージの話じゃないですが、裁判官として家裁に飛ばされたのは左遷であると、あの当時はもしかしたらそうだったかもしれないですが現在は変わりつつあると思います。今、家裁の裁判官はものすごく増えています。市民の法に則って物事を解決しようという機運が高まり、調停事件がものすごく増えているからです。 それから施行がいつになるか分かりませんが、共同親権の問題があって、ますます家事事件が増えるだろうと。とすると、職員も裁判官も増やさなければならない。だから左遷がどうだという世界よりは、社会のニーズに対応していくためにはどういう配置をするか、みたいな感じになりつつあるんじゃないかと思います。ただそれが本当に社会的ニーズに応えるためだけなのかどうかわかりません。 それからもうひとつ家裁の話で、少年事件の担当は、なりたての判事補がやることが多いんですよ。さっき当事者主義は少年事件に当てはまらないと言いましたが、少年事件の場合には、子どもというのは成長しつつある、変わりつつあるものだと、それをいかにしてサポートしていくかみたいな感じですからむしろ経験豊かな裁判官が携わるのがふさわしい、法曹三者が意見をぶつけて真実を発見するというのとは違った視点が必要です。 家庭裁判所って「家庭に光を 少年に愛を」、古色蒼然(こしょくそうぜん)とした言葉ではありますが、原点がそこにあったとすると、現在は特に家事事件については家庭裁判所の位置づけは昔よりはだいぶ高まってきたというか、意義が理解されてきてるんじゃないかなと思います。 武井 調停委員から聞いたのですが、相続事件は男性弁護士が来て、離婚事件は女性弁護士が来ると……。 あと最近の傾向として、大規模事務所化した場合なども含め、家事事件をやったことがなかったり、十分理解してない弁護士が増えていると感じます。家事事件には、それなりの専門性が必要なのですが、誰でもできる事件と思われているようです。 そのようなことが共同親権の立法をめぐる議論でも見えました。普段このような事件をやってないだろうというような弁護士たちもワアワア言っている。私は、独禁法改正とかでワアワア言わないですよ。今回、現場感覚と乖離(かいり)した立法がなされてしまったのも、そういうところに原因があるんじゃないかと思います。 鴨志田 私も実は8年間、家裁の調停委員をやっていました。家裁の調停委員と簡易裁判所の民事調停員と両方やってたんですけど、家裁ってもともと、家事事件と少年事件をやるためにできた裁判所なんですね。この二つに共通するのは、一つはどちらも家庭の中の問題であるということで、全然違う少年審判所と家事審判所を一緒にしたわけなんです。 要するに、同じところに根っこがあるのに別々にやってたところを一緒にしたわけで、それまでは家庭の中に法は立ち入らずみたいな考え方だったのに、いやそうじゃなくてきちんとそこに光を当てて法で助けていくという発想でできたはずなんです。だからどちらも、白黒決着をつけるという発想とは全然違うところで解決を模索してきたし、そのような発達を遂げなければならなかったはずなんですね。 ところが少年事件に関しては刑事裁判化、つまり白黒決着をつけ、悪い奴は処罰をするという方向に行っています。もともと少年事件というのはクローズドな空間で和やかな雰囲気で少年に語らせて、この子が次の一歩をどうやって踏み出すかみんなで考えようという場所だったはずなのに、凶悪犯だと簡単に「はい逆送」と、大人の事件と同じレールに乗せられてしまうことになっています。 家事事件の方は、私は最近「家裁の民裁化」とあちこちで言ってるんですけど、調停とか確かに効率は悪かったですよ。自分が調停委員やってる時にも、3時間4時間やるような調停もあったし、でもそこでまさに白黒決着をつけるんじゃなくて、だって離婚したって子どもは一緒なわけですしねというところをどうやって整えていきましょうかというところにじっくり時間をかけていた。例えば出頭しない当事者がいると調査官に訪問調査に行かせて、どうして来ないのかというところからまず調査しましょうみたいなことを、かつてやってたんですよ。 ところが今同じような状況になると、当事者の代理人である私に「お手紙出してみたらどうですか」と平気で言うんです。民事裁判と変わらないような調停がすごく増えてきてしまっています。まさに『虎に翼』で描かれたように、当時家裁を作った人たちは高い理想をもって普通の裁判所と別の組織を作ったはずなのに、それが薄れてきているというのは、家事事件と少年事件のどちらにも言えることです。 『虎に翼』は、そういう問題もあぶり出そうとした意図はあったと思います。これはむしろ我々の業界が考えなければいけない。家庭裁判所の役割、家事事件とか少年事件とはそもそもどういうものだったのか、今立ち止まって考えなきゃいけないかなと、すごく思っています。 武井 直近について補足させていただくと、まさに共同親権制度が導入され、両親が合意していなくても、裁判所が共同親権を認めるという方向に道を開いたんですね。また、DVや子どもに虐待があるケースは除外しましょうとなっているのですが、国会でも、裁判所はDVが判断できない等と言われていました。これからは、共同親権にふさわしいか、DVがないか、民事裁判みたいな書面を出し合う調停になるのではないかと思います。DVは、殴る蹴るというものは判断は簡単ですが、ネチネチと抑圧みたいなのは判断が難しいです。そういえば、共同親権について国会でDVの議論をしている際、『虎に翼』でDV夫の話が取り上げられていて、すごいと思いました。