【女性弁護士座談会】朝ドラ『虎に翼』と法曹界のジェンダー問題 鴨志田祐美/武井由起子/大沼和子
女性裁判官の比率はどう変わりつつあるのか
――最高裁の裁判官は男性が多いですが、全体として女性裁判官は増えてますね。 大沼 15年前ぐらいから女性裁判官は増えていると思います。合議体で裁判長が女性で右陪席左陪席も女性というのも結構あります。なぜ最高裁で男性が多いのかというのは、裁判官出身の女性がまだいないからじゃないですか? 裁判所の中でも、最高裁にはいないんだけど高等裁判所の長官は女性が増えています。札幌と、つい最近は福岡。私が確実に知ってるのはその二つで、福岡の高裁の長官になったのは私の同期です。高裁の長官も結構増えてきています。高裁の長官から最高裁の判事になる、そういうルートもあるし、いずれは出てくるんじゃないかなと思います。 鴨志田 数字的なところを少し補足しておきますが、2023年のざっくりしたデータですけれど、女性の裁判官の割合が28.7%、検事が27.2%、弁護士が19.8%ということで、この差はかなり顕著なんですね。 その理由は、裁判官は転勤が夫婦一緒に同じエリアでできます。例えば夫が鹿児島地裁だったら妻は鹿児島家庭裁判所だったり鹿児島地家裁の管内の別の支部だったり、夫婦でほとんど同じところに一緒に転勤していけるのです。でも検事はそうじゃないんです。裁判官の数が女性の方が多いというのは、育休とかの制度がしっかりしてることもあるんですが、全国転勤の中で一緒に基本的には動けるというのも多分影響していると思います。 最高裁はまた別の論理が働いていて、15人の裁判官の選び方にそもそもの問題があります。慣例で裁判官枠が6人、弁護士枠が4人で、5人が学者とか外交官とか行政官とかって枠が決まっていて、女性の裁判官が最高裁の判事には推薦されていない。裁判官の友達とかに聞くと、人事レースがあるわけですよね。だいたいどういうルートをたどるとここまで行けるとか、地裁の所長あたりで終わるとか高裁の部総括になるとか、高裁の長官まで行くみたいなのがかなり明確に外からみてもわかるような人事の仕方を、最高裁の事務総局はしていると聞きます。 女性判事がこれだけ増えて、将来はおそらく女性の最高裁判事が出ると思いますが、現状でなかなか出ないのはそういうところが働いていると思われます。男女比という問題以上に最高裁判事の人事全体に透明性を欠いて、様々な思惑なり力なりが働いているということは、別途考えるべき問題ではないかと思います。 大沼 10年以上前から女性の部総括もすごく増えていると思います。裁判所って出世競争とかいろいろあるんですが、法律で決まったことについては守りましょうという世界ですから、女性が増えてきちんと仕事をやっていれば、当然部総括ぐらいにはなれるはずです。 武井 裁判官枠で最高裁の判事になるには、大阪高裁の長官か東京高裁の長官を経験しないといけないという話を聞いたことがあり、部総括よりもっとずっと上のレベルにいかないといけないのではないかと、外から見ています。 弁護士会からの最高裁判事というのは、安倍政権までは、弁護士会活動で頑張った人を候補として出していましたが、官邸からノーと言われたことがあったようですね。女性は複数出ているものの、一弁や企業法務系の人に偏重しているという話もあり、家事事件などを経験した女性弁護士の就任が待たれます。 また、女性の裁判官の友人は、そこまで働きやすくないと言っていました。 それから法曹界の女性って同じ法曹界の人と結婚しがちなんですね。東大の女性は東大の人ぐらいしか相手にしてくれないという話と同じ感じで。法曹同士だと稼ぎは特に弁護士の場合は男性が高いことが多く、ついケアのほとんどを女性が担うことになり、バリバリ仕事しづらいことがあるようです。女性弁護士で激しく仕事している人の配偶者は法曹関係者じゃないことが多いと聞きます。 大沼 裁判官は時短というか、そもそも就業時間が職員と違って決められてないですよね。事件が多いからなかなか時間が取れないところがあると思うんだけど、自分自身でスケジューリングはできます。あと職員でも書記官でも半休とか何時から何時までみたいな感じで休暇が取れたりとか、そこらへんは結構進んでるところがあるんじゃないかなと思いました。 武井 ありがとうございます。私の友達が忙しかっただけかもしれません。 鴨志田 弁護士の話ですけど、私は特殊なケースで、子どもを育ててから司法試験を受けて、子どもが小学校3年の時に司法試験の勉強を始めて、5年生の時に受かって、子どもが中1の時に弁護士になったのです。その意味では手がかからなくなっていたし、あと自分の母親と同居していたというラッキーな環境にあったので、スタートダッシュの時点からそれこそ24時間働くというか、深夜の接見も全然普通に行って、バリバリやれるような状況でスタートしたんですね。 私が登録した後10年ぐらいの間に鹿児島県弁護士会も女性会員がすごく増えました。現在は20何人いて、当時の7倍とか8倍になってるんですけど、その割に自分の仕事は楽にならなかったんですよ。他の女性の弁護士はちょうど弁護士になったぐらいから家族を持ち始めたり子どもができたりして、全然フルタイムで働けてなかったですね。 例えば夫婦共々弁護士という人もたくさんいて、大崎事件の弁護団なんて夫婦3組同時に入ってたりとかいう時期があったぐらいみんな頑張ってたんですけど、子どもが2人以上いたり小さい子がいるとなかなかフルタイムで夜中の接見とかこなすことはできない。鹿児島は例えば委員会を昼間の時間にして夜の時間は入れないようにみたいな配慮は、最近は知りませんが、そうなっていなかったところに働きづらさはあったかなと思います。 大沼 いろいろ苦難があるけど、『虎に翼』は「はて?」とか言いながら乗り越えていってる。そこが勇気づけられるところなんでしょうね。