【女性弁護士座談会】朝ドラ『虎に翼』と法曹界のジェンダー問題 鴨志田祐美/武井由起子/大沼和子
女性弁護士は家事事件がメインという現実
――ドラマの中で、女性の弁護士にはなかなか仕事が来ないという現実が描かれてましたけれど、そういうことはもう過去の話なんですか? 鴨志田 いや過去の話ではありません。確かに、あからさまに女性だから替えてくれと言われた経験はないですけれど。私は鹿児島県弁護士会に18年いたんですが、鹿児島はご承知の通り、たぶん日本で一番、男尊女卑の気風が色濃く残っている土地柄です。 私は鹿児島にいた時は受けていた事件全体の8割がDV離婚の妻側の代理人なんです。私が弁護士登録したのがちょうど20年前の2004年なんですが、それまで鹿児島県弁護士会は85人ぐらいいた中で女性弁護士は1人でした。私は司法修習の57期ですが、同期にもう1人女性の弁護士がいたんですね。その時に「鹿児島県弁護士会は女性会員が3倍になった」と言われました。1人が3人になったので3倍なんですけど(笑)、初めて両性の平等に関する委員会というのが弁護士会に立ち上がったりしました。 鹿児島県の人口は当時175万人ぐらいだったと思いますが、うち95万人ぐらいが女性なんです。男性が都会に出て行っちゃうから女性人口が多いんですね。だから私が登録した頃は、女性弁護士は30万人に1人という割合でした。 それゆえ当然、今まで表に出ていなかった家庭内での夫の暴力をめぐって、それまでは男性の弁護士に「あんたが我慢すればなんとかなるんだよ」みたいなことを言われていた女性たちが、私たちのところに来るようになったのです。 相手方のDV夫の方には弁護士がついてないことが多かったと思いますが、そうすると直接相手方本人から事務所に電話がかかってくるんですね。相手はわあわあ言うわけなんですが、私が弁護士ですと言って電話に出て一生懸命対応し、30分ぐらい経ったところで、「もうお前はいいから弁護士を出せ」と言われるんです。女性は弁護士だと思ってないんですよ。今まで話してたのは事務員さんだと思ってるんですね。それが現実です。 私は会社訴訟も結構、鹿児島でやってましたが、会社には立派な顧問弁護士の男性がついてるんですけれど、何も仕事しないみたいなんですね。それで会社が抱えている問題を顧問弁護士に相談しないでうちの事務所に相談にくる。そこで訴訟の代理人をやって実際に勝訴して終わったんですが、だったら今まで何もしない男性の弁護士を顧問をクビにして私に顧問依頼すればいいじゃんと思うのに、それはしないんですよ。要するに企業が女性の弁護士に顧問を依頼するという発想がないんです。 武井 私は弁護士としては2010年登録ですが、その前は14年間、伊藤忠商事で働いていたんです。弁護士自体は、寅ちゃん世代が切り開いてるから、女性が弁護士になること自体は当たり前のようにできています。一方、会社は、男女雇用機会均等法施行が86年で、私がいた伊藤忠商事では89年から女性総合職を採り始めているので、私は2期目でした。 しかし、会社は、今では、女性役員が登用されたりしています。法曹界は女性に門戸を開いたのは早かったのですが、結局すごく遅れたままで、変化のスピードが遅いと実感します。 会社員の友達でも男性と同じように働いてる人は大体同じぐらい収入がありますが、弁護士の場合は、やはり所得が高いのは男性弁護士で、女性弁護士はDV事案みたいな家事事件メインか、勤務弁護士やインハウスで、産休・育休も取りながらの働き方を許容してもらうという感じで、統計でみても所得が男性の半分しかないんですね。顧問先がある割合も、男女で全然違うので、かなりギャップがあるという感じがします。 私も会社に入った頃は、私が担当なんで喋ってると「男性出せ」みたいな人は結構いて、「いや私が担当ですけど」と言ったりとかいうことはありました。ただ、会社だと、その後、ちゃんと仕事して信頼ができれば、ああ、あの人ねと差別的なことには遭わなくなる。でも弁護士って一期一会(いちごいちえ)じゃないですか。調停に行ったら男性調停委員から罵倒されたり、男性裁判官から無礼なことを言われたり、相手方の弁護士からもそういうことがあります。「私が年配の男だったらこんなこと言ってないでしょう」と思います。どこへ行っても初めましてなので、ひどい人からまずマウントされるところから始まる。時々、不快な思いをします。