漫才に格安塾経営、農業、仏教…M-1王者「笑い飯」哲夫さんが切り拓く「6足のわらじ」 一聞百見
出した本は「えてこでもわかる 笑い飯哲夫訳 般若心経」。ベストセラーとなり、仏教は今や哲夫さんの代名詞の一つともなった。
8年ほど前、高齢の父から本格的に兼業農家を継ぐと、元来心配していた地球温暖化への危機感がより身近に感じられるようになった。「今年は暑すぎてキャベツの苗が育たなかった。僕らが小学生の頃、教室にクーラーなんて必要なかった。もう異常でしょう」
そこで話は再び塾経営へ。「塾で子供たち皆が賢くなってくれたら、未来への投資になる。そう思えば決して高過ぎる投資ではない」といい、地球温暖化を食い止めるための技術革新を次世代へ託したいのだと語る言葉が熱を帯びる。
プライベートでは3児の父。自然豊かな故郷で子育てがしたいと長女が小学校に上がるのを機に今年、大阪から奈良へUターン移住した。「今朝は子供を保育所へ送って、玉ねぎを植えてからNGK(なんばグランド花月)に立ちました」と笑う。
お笑い芸人を続けながら、前述の塾経営と仏教、農業、好きだった花火の解説-とフィールドをどんどん増やし、結果として新たな仕事へとつながり、いつしか5足の草鞋(わらじ)を履いていた。「いやいや。何となく偶数にしたいな。それなら本当に草鞋を編んでみようか」とひらめき、「草鞋編み」を加えて〝6足〟に。
「また会社が、ちゃんとすぐに仕事にしてくれまして」と長期休暇の子供向けに草鞋や注連縄(しめなわ)の編み方を哲夫さんが教える体験講座も始めると人気になった。
これらの話題で講演を依頼されることも増え、先日訪れた市では「7足目で市長なんてどうですか」と声をかけられた。「片手間で市長なんて…と言いつつ、ここまで増えたら8足目に知事というのもオモロいんちゃうか、なんて思いました」。ボケなのか、もしかして少し本気も混じっているのか。
NGKの出番の幕あいに応じてくれた取材を終え、休む間もありませんね、といえば、「移動時間が休み時間。新聞を読んだらよく眠れるんですわ」とあっけらかんと笑う。忙しくとも「あくまでも本業はお笑い芸人」。そう言い置いて、再び観客が待つ舞台へと戻っていった。
てつお 昭和49年、奈良県桜井市生まれ。関西学院大学文学部哲学科卒業。平成12年、お笑いコンビ「笑い飯」を西田幸治さんと結成。22年にM―1グランプリで優勝。幼い頃から般若心経に興味を持ち、仏教通としても知られるほか、27年から奈良国立博物館の文化大使を務める。著書に『えてこでもわかる 笑い飯 哲夫訳 般若心経』など。