テニスの八百長事件はなぜ起きた?その背景と再発防止にやるべきことは
10代の頃はジュニアデビスカップ日本代表にも選ばれ、前途を期待された選手である三橋淳が、八百長等への関与を理由に“テニス不正監視団体(TIU)”から永久資格停止を言い渡された。これは選手としてはもちろん、コーチ等としても公式戦の場に立ち入ることを許されない、極めて重い処分である。 TIUによれば、三橋は2015年11月に南アフリカで行われたフューチャーズ(下部ツアー大会)で、かつて自分がコーチをしていた選手を通じ、他選手に対してシングルス2000USドル、ダブルスは600USドルの報酬で負けるよう働きかけた。また同年12月にもナイジェリア開催のフューチャーズ大会で、参戦選手に直接八百長を持ちかけたという。加えてそれらの期間中に、テニス選手は禁じられているテニス賭博にも76回参加。TIUは三橋に対し、事情聴取のために再三連絡を入れたが返事はなく、今回の処分に至ったというのが事の顛末のようだ。 日本人選手の関与、そして永久資格停止という処分の重さは、当然のように衝撃をもって報じられた。だが八百長に象徴されるテニスの不正は、ここ数年世界中の関係者が頭を痛める悩みの種だ。テニス選手の不正が大きく関心を集めた発端は、2007年に当時世界3位のニコライ・ダビデンコが賭博に関与した可能性があるとして、ATPが調査に乗り出した時。TIUが発足したのは、その翌年である。 近年再びこれらの話題が世間の耳目を集めたのが、昨年1月、BBCとニュースサイト“バズフィード”による、不正関与選手のリスト入手のスクープだ。両媒体ともにリストそのものを公開はしなかったが、「4大大会の優勝者も含まれている」と報じたため種々の憶測を呼ぶことに。その渦中で、当時世界1位のノバク・ジョコビッチが「2007年に、チームスタッフの一人が八百長を持ちかけられた」と明かしたことで、闇の存在はにわかにリアリティを増した。 テニスが賭けの対象になりやすいのは、その圧倒的な試合数の多さにあるだろう。何しろテニスは、常に世界のどこかで大会が開催されている。トップグレードのATP(男子)とWTA(女子)のツアーだけでも週2~3大会行われ、その下の“チャレンジャー”や“ITF”“フューチャーズ”と呼ばれるトーナメント群まで含めれば、男女それぞれ15前後の大会が毎週のように開催されているのだ。昨年行われたテニスの公式戦は、114,126試合。そのほとんどが賭けの対象となり、テニスはサッカーに次ぐ“人気のギャンブル”だったという。 また増加する不正に拍車をかけるのが、一つは不正の容易さだ。シングルスでは結果の操作は当事者一人に委ねられ、さらには、賭けの内容は勝敗のみならず「どちらが第1セットを失うか」「何ゲームを落とすか」など多岐に渡るという。試合に負けずとも不正に加担が可能なことが、誘惑への抵抗感を低めるのだろう。 そしてもう一つの悪循環の歯車が、フューチャーズなどの下部大会で得られる、賞金額の低さである。国際テニス連盟(ITF)開催の公式トーナメントのうち、男女共に最もグレードの低い大会は賞金総額1万ドル(今年から1万5千ドル)。シングルスの優勝賞金はその14%前後なので、日本円にして15万円ほど。初戦で敗れれば1万円ほどしか得られないため、不正関与の報酬の方が遥かに高いケースが生まれやすい。